軍師、後始末をする

・・・それで二時間程経った所で、孔明の元にリグレットが訪れてきた。



「・・・よく来てくれました。ですが大丈夫だったのですか?抜け出すのが難しい状況なら来なくても構わないと伝えるように言ってあった筈ですが」
「いえ、事が事ですから直に話をした方がいいと思いすぐに切り上げてきました。それに軍に私がいつもいるわけではありませんので、兵士達も私がいなくなったことに追求せずにいられない程の疑問を向けてくることはありませんから大丈夫です」
早速孔明は歓迎と共に心配の声を向けるが、リグレットは首を横に振り心配はないと返す。
「それならいいでしょうが、そちらはそちらで何か考えがあるのですか?導師達がいなくなったことに関して」
「・・・丞相の様子を見る限りではモースにまだ情報は伝わっていないようですが・・・」
「えぇ、と言うよりはまだ事が露見すらしていない状況だと思いますよ。表向きの導師の状況は誰にも会わせられない面会謝絶のようなもので、その実態はモースによる軟禁・・・そんな状況で人の往来が盛んに行われる訳がありませんし、ましてや部屋の中に様子を見に来る人間などそうそういるはずありません。おそらく我々以外が事実を知る時は誰かが導師に食事でも提供しに行った頃、だと思われます」
「・・・だとすれば、まだ時間はかかりそうですね。導師がいなくなったという事実がモースに知られるのは・・・」
「おそらく死霊使いと呼ばれる人物、ジェイド=カーティスはそう言った事も狙って導師達に秘密裏に接触して連れていく事にしたのでしょう。手際の良さはある意味で感服はしますが、その代わりモースが事実を知った場合確実に行動を起こすでしょうね」
「はい・・・実は私が丞相の元を訪れたのはそれが理由です」
「・・・成程、モースからの指示が貴女方に来ることは間違いないと見たということですか」
「はい・・・」
それで孔明よりの用向きの問い掛けから二人はモースに対しての話題で会話を繰り広げるが、指示との言葉にリグレットは微妙に表情を歪める。
「事実を知ればモースはまず間違いなく我々に導師の身柄を確保するように言ってくるでしょう。周りの被害など気にするなとばかりか、お前達が全て証拠となる物を揉み消してしまえと責任を丸投げにする形で」
「モースなら間違いなくそう指示してくるでしょうが・・・今謡将はベルケンドでしたか?」
「はい、今も研究をしている者達の様子を見ながら計画についてを考えているようですが・・・導師がいなくなったなら探しに行けと謡将もモースから指示を受け、我らと合流した上で行動をするでしょう。そうなれば厄介な事になります」
「ふむ・・・」
それでモースの指示について話すのだが、ナチュラルに閣下呼びから謡将呼びに変わっているリグレットに反応することなく孔明は考え込むよう声を上げる・・・もうこの数年で完全にリグレットの心の中にはヴァンに対する気持ちはなくなった、それをよく理解しているが為に。
「・・・焦ることはありません。モースならまず貴女方と謡将の合流など待つことはなく、謡将は後で追いつかせればいいと貴女方を先行させる事を選択するでしょう。その上でベルケンドとマルクトは相当に遠く離れた位置にあります・・・貴女方が先んじて行動出来る機会は十分にあると私は思っています。謡将に悟らせることなく事を進められる機会は」
「・・・どうなるかは我々にかかってこそいるが、丞相は大丈夫と信じられているということですか」
「えぇ、そうです」
「・・・そういうことなら期待に応えない訳にはいきませんね・・・!」
孔明はすぐに心配はいらないと根拠と信じていると言った声と微笑で返し、リグレットもまたやる気に満ちた表情を見せて返す。うまくやってみせると。










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