軍師、後始末をする

・・・丞相。ダアトにおいて一般的には大詠師の腹心と呼ばれる地位についている人物の役職名である。そんな役職につく人物、孔明は自らの執務室にて書類と対峙していた。



「・・・失礼しますぜ、旦那様」
「どうしました、くのいち?今は見回りをしていたはずですが、何かあったのですか?」
そんな孔明の机の前に音もなく瞬時に姿を現すくのいちだが、孔明は全く驚いた様子もなく応対する。
「まずは報告ですが、導師とアニスがマルクトの死霊使いって呼ばれてる大佐殿に連れていかれましたぜい」
「・・・導師とアニスがマルクトに、ですか?どういうことですか?」
くのいちも対して気にせず話を進めるが、その中身に孔明は眉を上げながら理由を問う。くのいちは軽く言っているが、その中身はダアトという国のトップの誘拐というとんでもない中身な為に。
「簡単に言いやすが、マルクトはキムラスカとの和平を結びたくて導師に仲介を頼みに来たんです。けど手段が手段だからどっちも拒否を返せなくて、一緒に行かざるを得なかったってのがあっしの正しい見方ですな」
「・・・確かマルクトから今日誰かが来るなどとの来訪の報せは受けていませんでしたね。それに導師の今の状況は外部の人間が接触するには普通は出来ない状況にある・・・と言うことは彼らはダアトに忍び込んだ上で導師に会いに来たということですか。断られない事を前提にというより難色を示したなら無理にでも連れていく為に」
「さっすが旦那様、そこまで読みやすか」
「これくらいは当然ですよ」
くのいちはその経緯についてを詳しく話すのだがすぐに理解を示す孔明に、互いは共に笑みを浮かべる。
「ただ、そうとなれば少々厄介ですね・・・二人は断った場合の身の危険を感じてやむなく従うことを選んだのでしょう。まぁ協力を願い出たということであれば二人が虐げられるような扱いを受けることはないでしょうが、反面導師がダアトからいなくなったという事実は少なからず内部に影響が出ます。その中で行動を起こすのは誰かと言えば・・・間違いなくモース以外にいません」
「成程・・・導師を取り返すためにマルクト軍を攻撃してでも行動しろって指示を出すってことですね?旦那様」
「えぇ、彼の性格ならまず間違いなくそうするでしょう。マルクトがキムラスカと和平を結ぶなど、あってはならないことですからね」
しかし表情を元に戻しモースの行動に思惑についてを語る二人に油断の空気はない。むしろ口調こそ穏やかだが空気は引き締まっているといった様子だ。
「で、どうしやすかい旦那様?」
「そうですね・・・まだマルクト軍はダアト内にいますか?」
「ついさっきのことだから行けと言われればまだ追いつけやす」
「・・・ならリグレットに事の次第と可能ならこちらに来るようにと記した文を渡してから二人を追いかけてください。状況次第では貴女の判断で姿を現して彼らを守っていただいて構いませんので」
「あれ?いいんですかい?」
「貴女の身分に導師達がダアトから出た事を察したから護衛として影ながら付いてきたとでも言えば、アニスが援護するでしょうからまず無下にされることはないでしょう。それに変に出し惜しみをして事態の収拾がつかなくなるよりは全然マシです」
「・・・わっかりました~!じゃあ早速行ってきます!」
それでくのいちが指示を仰ぐと孔明は一つ質問をした上で指示と補足を告げ、その中身を受け出ると一瞬でその場を後にした。部屋に残るは、孔明一人。
「・・・さて、今のうちに書類を片付けますか。後々色々忙しくなるでしょうからね」
そんな孔明は先を見越した上で書類に視線を向ける。確かな予感を感じながら・・・











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