「それならいいと言いたいのですが・・・謡将は本当に丞相の事を大詠師に報告はしないのでしょうか？確かに謡将の立場からすれば迂闊に大詠師に自身にとっても不利になりかねない情報をもたらす可能性はありますが、それでも奥方の存在から丞相が指示を出しているとの考えに行き着くのは目に見えていますし、丞相に自身の思惑を邪魔されたと考え大詠師に始末の指示を求めるのは有り得なくはないと思うのですが・・・」
「少なくともしばらくの間はそれらを大詠師に伝えることはありませんよ。先に言ったように妻達の行動を知らせるとなれば自身の失態を伝えることと同義になりますし、謡将からしてみれば私がどのような目的で自身の邪魔をして行動をしてくるのか・・・それが分からない事が一種の懸念となります。その上でリグレット達を間蝶としていつから仕立て上げたのか、そして自分達の情報を得ていた私がどういった行動に出るのか・・・下手な行動は命取りになると彼は思うでしょうからね」
「・・・丞相が謡将達の手の内を知るからこそ、謡将は迂闊に動くことが出来ないというわけですか・・・」
「はい・・・ですがそれもいつまでも続くとは思ってはいません。謡将も遅々として進まぬ状況に加えて私の行動をどうにか掴まねばならぬと思うでしょうから、しばらくすれば部下達という足元に不安を抱きつつも動き出すでしょう。それまでが重要です」
だがトリトハイムは重要な事としてすんなりこのままうまくいく気はしないとする言い方をするが、ヴァンはまだすぐには動きはしないと言いきった上で時間に制限はあると返す。
「しばらくは大詠師に謡将はダアトに戻ってくることはまずありません。その状況下で私達がやるべき事はまず、一言で言うならダアトの掌握になります」
「・・・主に謡将に忠誠を誓い、ダアトに残っている兵士達の捕縛ですね」
「はい・・・まだリグレットの話では全兵力を引き連れてダアトから出る目算は立ててはいないとのことです。まだ反旗を翻す時期ではないと見ているからと言うのもあり、ダアト内の秘密の基地を含めた施設を利用する事を視野に入れてと・・・ですからまずは彼らを一網打尽にして捕縛します。謡将に我らの動きを伝えるといった何らかの行動を取らせないようにする為にも」
「・・・それが成功すれば、謡将の戦力はどれだけ減ると丞相は見ていますか？」
「今の状態であれば謡将の兵力の半数近くは削れます。まだ全兵力を従え離反という状況ではないのもあって半分近くの兵を残しているとのことですからね・・・ただ放っておけば時が経つほどに離反する可能性が高くなりますから、今を逃すのは愚策以外の何物でもありません。私が指揮を取り、確実に全員を捕らえます」
「・・・丞相の能力を疑うわけではないのですが、大丈夫なのですか？貴方は軍の指揮を取るような役職ではないので、そのような経験はないのではないですか？」
それでその時間の内にダアトの掌握をすると言い、その核心はヴァンの配下の捕縛が要と告げる孔明にトリトハイムは不安を抱いた表情を見せる。軍を率いた経験がない人物に、軍を動かすことが出来るのかと。
「・・・その辺りは実際に私の手際をご覧になっていただく以外にありません。自信はありますが、それらを証明出来る手段及び経歴は表向きにはありませんからね・・・どうしても不安というのでしたら、トリトハイム殿が謡将の配下の捕縛の指揮を取られても構いませんがどうですか？」
「い、いえ・・・私もそのような経験はありませんので、そちらは丞相にお任せします・・・」
しかし孔明の頭に勝てるはずもなく指揮を譲ると言われ、すぐに腰の引けた様子になるトリトハイム。まぁこの辺りは人材がいないことや自分がうまくやれる自信がないからこそ、トリトハイムもこう言わざるを得なかったと言える。











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