女忍、躍動する

「その辺りは貴女も丞相も元々から考えていることでしたでしょうが、謡将達を廃した後に彼が神託の盾に残ったとしてもメリットなど何もないでしょう。むしろ謡将のいない神託の盾などいる意味がないとばかりに、事が済んだならとっととダアトにローレライ教団を離れることを選ぶのは目に見えてます。そこで彼がどういう行動を取るか・・・ハッキリ言ってこれは私にはどうなるか予想が出来ません。彼がダアトを出るとなったらルークの存在をキムラスカが手放すとはとても思えませんし、事実を知ったならアッシュを是が非でも連れ戻しにかかるでしょうし・・・ただ最も最悪な可能性を上げるならアッシュはそうじゃないと否定するでしょうが、彼は孤独の日々を終の住処に出来るような人間とは私には思えません。彼はルークへの怒りにナタリア殿下への想い、そして謡将を慕う気持ちがあって盛大にひねくれてこそいますが今も生きています。そんな彼が謡将もいない世界の後に誰を頼りに生きるかとなればその二人への思い以外にありませんが、もしルークへの怒りにナタリア殿下への想いを我慢出来ず爆発させたとしたなら・・・」
「・・・最悪の事態になることはどう考えても間違いないね。それも旦那様でも改善不可能な状況にしかならないのが目に見えるくらいに」
「あくまで私の考えですけどね、これは」
その上でディストは自身が考えるアッシュの行動による最悪な状況についてを上げていき、その中身にくのいちも重く受け止める。先程の話に繋がる、アッシュの隠れた一人では生きていけない性質についてを。



・・・人は一人では生半可な事では生きていけない。それは事実ではある。社会という物がある以上多少なりにも人と関わって過ごす事を避けるのは難しいことであり、そういった生活を徹底出来る環境と言うものも整えにくい物だから。

だがそれでも人の中にいても誰かを想い、誰かと寄り添ったり心の内を語らったりしないまま他者との関わりを深くすることを拒み、生きる者もいないわけではない。そういった者が孤独という状態になるわけだが、ディストはそんな孤独にアッシュは本当の意味ではなれないと見ていた。神託の盾内でも誰かと仲良くすることを拒み、無頼の人間といった風に振る舞いはしていてもだ。

・・・最初の内はアッシュにも意地があるからヴァンがいなくなってしばらくはまだ我慢もきくだろう。誰にも頼らずに生きていこうと思うくらいに。しかし心の内を無理に押し込めたり誤魔化すだけで長い間生きていくことなど、アッシュには無理な芸当としか言えなかった。もしそのやり方を貫こうとしたなら周りに八つ当たりをしながら暮らすか、もしくは様々な我慢が募って体調を一気に悪くなって死亡という二択だろうが後者に関してはそれこそ可能性が低いだろう。アッシュが自らに不満の欠片を全く出すことなどなく生きていくなど、それこそ全く有り得ない事なのだから。

となればいつになるかは定かではないにしても、そこから先にアッシュが爆発する可能性はどんどん高まっていくばかりだ。どんな形であろうが、世界を全て巻き込む程の大事を起こしてしまう可能性は。



「・・・そういった面も含めて、旦那様にはアッシュの処遇を決めてもらわないといけないかな~。まだこっちに協力してくれるんならどうにかなるかもしれないけど、そうじゃないってんなら旦那様が決めた方がいいだろうしね・・・今後の事を優位に進める為にも、ね」
「・・・どれくらいえげつないことになるか、私には想像出来ませんね。丞相は私にジェイドとは方向性が違う天才ですから、どこまでいくのか・・・かといって同情はしませんがね」
くのいちはそこまでで話を打ち切るといったようにしながら孔明を引き合いに出し、ディストは恐ろしいと言いつつも他人事だと漏らす。アッシュの事などどうでもいいとばかりに。









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