焔と預言の世界の行く末

「・・・少し話が長くなりましたね。と言ってもこれも三年前の事についてを思い出した上で、何事もなく話が出来るのが貴方くらいだからですが・・・」
「そうですね・・・陛下に公爵とは立場上話が長く出来ないのもそうですが、ナタリアに・・・アッシュとはこの話をすることすらはばかられると言った空気がありますからね・・・」
そこでジェイドは少し周りを気にするように話が長くなったことを口にすると、イオンも周り・・・と言うか、少し遠目に見えるアッシュのあまり機嫌が良さそうに見えない姿を見て複雑そうに返す。



・・・ジェイド程は敏感に空気を察することが出来ないイオンだが、そんなイオンでもアッシュとナタリアの事についてはあまり良くない空気を察せてはいた。この場に来た時の会話でだ。

この三年で自分の立場を理解した上で尽力して成長してきたイオンからすれば、そのアッシュの姿は聞こえは悪かろうと稚拙としか言いようがなかった。ただそう言うには多少付き合いがあったのとこの場が何のために開かれたのかというのもあり、大きな声で口にするのは流石にと思ったからだ。

そんなイオンだが、アッシュがどうしてそうなったのかの理由は見当はついている。それは・・・



「・・・まだルークを自分の手で殺したいと、そうしなければ変わらないとでも思っているのでしょうか・・・」
「最早そうしたとしても変わらないのではないのですか?殺せてない今はあの屑がいるから苛つくんだと言い、殺せたとして態度が急に借りてきた猫のように大人しくなるとも思えません。むしろあの屑を殺したのだからこれが正しいことだろうと、まるでルークを殺したことが自分の行動の全ての免罪符になるかのように考える可能性すら有り得るでしょうね」
「っ!?・・・そこまで有り得ると、貴方はそう思うのですか・・・」
「いない人物に対してあそこまで偏執する姿を見てしまえば、もうルークを殺せるかどうかなど関係無いでしょう。むしろ本当に殺してしまった場合こそが危うくなる場合も有り得ます・・・一応ルークとアッシュの入れ換えなどないといったように皆が振る舞って事を済ませたのに、自分から下手をしてそれを明かしかねない形でです」
「っ!・・・そんなことになるくらいなら、ルークを殺せるような機会は訪れない方がいいですね・・・」
イオンがそこでルークについてを口にするのだが、ジェイドの推測を聞いてたまらず表情を青くする。もしルークをアッシュが殺したなら、世界がどれだけ酷く混乱するかを想像してしまい。



・・・アッシュの態度が未だに変わらない理由はやはりルークだと、イオンは考えていた。ルークを自分の手で殺せていないからだと。しかし今ジェイドから聞かされた推測は、あまりにも危険だと感じざるを得なかった。ルークを殺すという満願をアッシュが叶えた場合でもまた、危険が待ち受けているのだということに。

アッシュの現状としては本物の『ルーク=フォン=ファブレ』に戻ってから三年になるが、ルークとアッシュが再び入れ替わったと知っている者はそう多くはない。だがアッシュからしてみれば不本意極まりないことであろう・・・劣化レプリカで自分より劣っている屑だと目している相手に、自分が情けをかけられるような形でその位置をかなり強引に戻された事は。

だからこそ今のアッシュがルークをもし殺せたとしたなら、今までの全てを帳消しにするような判断からの行動を取りかねない・・・ジェイドのその推測を聞いてイオンは背筋が凍る想いを感じた。それこそルークとアッシュの入れ換えの件が明かされるだけでもどれだけの事態になるのか、想像するだけであまりにも恐ろしい事態になると考えてしまったために。









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