終幕は怒りと共に引く

「・・・同じような事を言うけれど、もうそれもおしまいよ。貴女はルークにはもう会えないのだから」
「っ!お願いよ!もう一度、もう一度だけルークに会うチャンスをちょうだい!今度こそは・・・!」
そんな反応にジュディスがもう終わりだといったように声をかけると、尚も諦めが悪くあがくように声をティアは上げる。最後のチャンスを逃したくない、色々言われはしたがただその一心を捨てきれない為に。
「ダメよ。だって貴女の事はもう信用することなんてしないって決めたし、何より・・・」



「今から死ぬだろう貴女に、そんなことを考えるような余裕なんて無いでしょう?」



「っ!?」
・・・必死の懇願に笑顔で答えるジュディスだが、その表情にそぐわない耳を中身にティアはたまらず驚愕に後ずさった。明言ではないにしても意訳すれば殺すと取っていい、ジュディスから聞くにはあまりにも物騒すぎて冷徹な響きの言葉に。
「ハッ!」
‘ブンッ!’
「っ、ぐっ・・・!?」
「遅いわ」
‘ドッ!’
「があっ・・・!」
そして次の瞬間に足を切り払うように槍を振り切るジュディスの攻撃に何とかジャンプしてティアは攻撃をかわすが、空中で腹の痛みに顔をたまらずしかめている時にジュディスは槍の反対の石突きの部分で腹を勢いよく突いて吹き飛ばす。
「ぐ、ぐぅっ・・・」



‘ズブッ!’



「あぁぁぁぁぁぁっ!?」
・・・地面に倒れ痛みに苦しみながらも、何とか立ち上がろうとしていたティア。だがすぐに距離を詰めたジュディスがティアの左肩に槍を躊躇いなく突き刺し、骨が折れて痛むはずの腹の事など忘れ去ったかのように痛みに悲鳴を上げた。
「あら、痛いかしら?まぁ当然よね、肩を突き刺されたのだから」
「ひっ・・・!」
だがそんなことをした当人であるジュディスはまるで他人事のようでいて軽い声を出すのだが、ティアは痛みに声を上げるでも強気で抗議するのでもなく・・・恐怖に盛大に顔をひきつらせた。先程までの笑顔が嘘かのようでいて、アドリビトムの中でも付き合いの長いユーリ達でも見たことが無いような・・・柔らかさや皮肉を乗せた笑みなど一切存在しない、純粋でいて強烈で強大な怒りをジュディスが浮かべていた為に。



・・・美人が怒ると怖い、そう言った言葉がある。これは美人が怒ると迫力があるからというように言われていることが多いが、美人と言う存在は姿形だけではなくて心まで美しく整えられていて、滅多な事で感情を剥き出しにして怒るといった行為に出ないと見られているからである。

そう言った点を踏まえて見れば、確かにティアは見た目としては十分に美人といった部類に入りはする。だがその内心の内はどうかと言えば、見た目とは真逆に到底整えられているとは言えない物であった。自分のしたいことを優先して誰かに嫌なことをされればそれを受け入れることも出来ず、すぐに感情を爆発させる・・・そういった事の繰り返しばかりを行い、自分の考えを改め整理出来ないといったようにだ。

そして人というものは慣れる生き物である。そんなティアのよく見る怒りに対してルークもそうだが、アドリビトムのメンバーにアッシュ達までもが怒りに怯むような事など無くなっていった。すぐに爆発するが中身がない怒りしかない物など、何度も見てきてしまえば新鮮味もだが恐れるような要素などないと分かってしまう為に。

・・・しかし今のジュディスの怒りは、ティアの物とは根底からして違う。常から落ち着き払い思慮深い彼女は怒りの感情を見せることなどほとんど無かった上に、気に入らない相手がいてもトゲのついた皮肉であったり実力行使で物事を片付けてきた。

しかしティアに対しては違う・・・今までに何度も他の面々と共に口で叩いてきたりしたが、それでも根本と態度が変わらないその姿はルークに体を重ねる程に惹かれたジュディスからしてみれば怒りを感じざるを得ない代物であった。誰も他には見ていないという制限をかけたからこそ、ティアという相手に対して何も取り繕うことのない純粋でいて我慢する事のない怒りを見せる程に。









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