表向きの終幕、裏で起こる奔走

『・・・久し振りと言うには、いささか早い再会だな。ティアよ』
「・・・!」
それでティアの前に現れたローレライは若干の呆れを伴わせたような言葉を漏らすが、ティアは最早細かなニュアンスになど気がいかないとばかりに強い視線をローレライに向ける。
『・・・さて、そちらがこうして我を呼び出したのは我との契約・・・と言いたいのだろうが、わざわざ我を呼び出した理由はルークに関することであろう?』
「なっ・・・!?」
『・・・今までの旅もそうだが、音譜帯からそなたらの様子は確認していた。特にアッシュ達とのやり取りからこの場に来るまでを見ていたが、ルークに関することでそなたは感情を露にしてきた・・・そう考えれば我と契約をしたいというのも、その為だと分かる』
「っ!だったら何なの!?貴方には関係の無いことよ!」
『・・・関係がない、か。どのような理由で契約をしたいかも言わず、力だけを無心したいと騒ぐような輩に力を貸したいと思うような物好きがいると思うか?』
「っ!?」
ローレライはその視線に呼び出した訳についてを言葉にしていき、ティアは最早思考などないとばかりの反射のレベルで関係ないと切り出すがその言葉に気を悪くしたといった返しをされて顔をひきつらせる。



(まずい、このままじゃあ今までのパターンだとローレライが早く音譜帯に行ってしまう・・・もう仕方無いわ、譜歌を歌う・・・!)
瞬時にティアは今までの経験を思い出し、説得を諦めて譜歌を歌い出す・・・ローレライを使役するために・・・









・・・だが数分後、譜歌を歌っても何の変化も現れずただ浮き続けるローレライの姿があった。
(どうして・・・前に兄さんは地核に落ちた時に譜歌を歌ってローレライを取り込んだって言っていたから、譜歌を歌えば私もそう出来ると思ったのに・・・!?)
それで流石にどういうことかと譜歌を歌い止めてオロオロと戸惑うティアの耳に、ローレライから嘆息が聞こえてきた。
『ふぅ・・・今までの様子を確認していたと言ったろう?そしてそなたが我と契約を結びたいと言い出した時、我は考えたのだ。もしそなたにとって何らかの不都合な返答・・・それこそ我が契約をしないか渋るなどの様子を見せれば、無理矢理にでも譜歌を用いて我との契約を結びにかかることも有り得ると感じたのでな・・・だからユリアの譜歌を歌われても意味がないよう、契約の術式を無効化させてもらった。故にそなたが何度正しいユリアの譜歌を歌おうとも、例えユリア当人が歌ったとしても最早我にその譜歌が影響を及ぼすことはない』
「なっ・・・!?」
『そんなことが出来るのか・・・そういった様子だがそもそもユリアが譜歌で我と契約をしたのは我が共に行動するのには不都合であったり、強力な術を使ってもらうための補助をするためだ。その契約は我を強制的に従わせるような類いの代物ではないし、契約も我の方から破棄が出来るほどに緩い代物だった。ユリアはそなたのように是が非でも我と我の力を縛り付けてでも使おうと考えてはいなかったのでな・・・それを今回はうまく利用させてもらい、ユリアとの関係が切れることに多少思うところはあったがそなたにいいように転ばせない為にも契約を破棄したのだ。もしもの時の事を考えてな』
「・・・っ!」
そこからローレライはどうして何も起こらなかったのか・・・それは譜歌の契約を破棄したからだと語っていき、ティアはまさかの事実を聞かされて愕然とした。ユリアの譜歌の契約の裏側がそうだったということもそうだが、何より・・・その事実が指し示すのは、もうローレライとの契約は出来ないというものだったために。









.
19/21ページ
スキ