鬼の居ぬ間に

「・・・私が言いたいのはローレライ、貴方とユリアと同じように契約を結びたいの」
『・・・我と契約だと?どうしてそのような事を言い出す?』
「・・・もしもの時の事を考えてよ。貴方が音譜帯に行くことについては止めることはしないけれど、その後で何かが起きれば私達だけではどうにもならない事態になるかもしれない・・・そう言った事態に備えたいの」
『・・・ふむ・・・』
(上々、かしら・・・ローレライなら私がかつての未来から来たことは察してはくれるかもしれないけれど、そうはならないかもしれない・・・だから慎重を期して本音を言わないようにしたけれど、意外と効果はあったようね・・・)
ティアは真摯に自分がいかに後の事を思って契約を切り出したといったように言い、ローレライが重く声に漏らす様子に内心で順調と考える。本音を明かさないまま行くことに関してを。
『・・・そなたの気持ちは分かった。だが我と契約する以前に、我が音譜帯に登ってしまえば例えユリアの譜歌を持ってしても我を地上に戻すことは出来ぬぞ。プラネットストームが止まった以上は第七音素の流れはもう無くなり、譜歌を歌っても音譜帯上の我にはまず届かんのだからな』
「っ!・・・それは・・・(迂闊だった・・・前はエルドラントがあったからローレライを呼び寄せることが出来たけれど、今の時点でフォミクリー技術が使われていて大量の第七音素として使える物なんてない・・・!)」
だがローレライからの返しの言葉にティアはハッとしてしまった・・・前と今の状況の違いが、例え契約をしてもローレライを呼び出せない可能性が高いということに。
(どうしよう・・・今この場ならローレライに頼んで過去に戻らせるようには出来るけれど、今戻るのは流石に早いとしか思えないし・・・けどここでローレライを逃がすなんて・・・)
『・・・仕方無い。ならば特別にこれを渡しておこう』
「っ・・・これは・・・?」
焦るティアはどうしようかという考えで危ない方向性に行きかけようとしたが、ローレライが鍵から光輝く飴玉程の大きさの珠を浮かせながら出し、警戒しながらも手に取り何なのかとティアは問う。
『それは我の一部の第七音素を物質化したものだ。どうしても我を呼びたいと思った時にそれを地面に思い切り叩き付けるなどして壊せば、一度限りではあるが我がそこに行くようにする。それを持っておけ』
「え・・・いいの、ローレライ・・・?」
だがローレライからの返答とその中身に、ティアは嬉しさ以上に戸惑いがこもった声で問い直す。そんな貴重な物をくれてもいいのかとばかりに。
『我と契約したとしてももしもの時が来た場合、納得しないのはそなたの方だろう。だがそれで我が地上に残れば以降問題が起きればまた我に頼ればよいという風潮になりかねん可能性も出てくる・・・だからこそそれはその二つの問題を解決するための折衷案の代物だ。だが今言ったように我が何度も地上に戻るような事は避けたい為、それ一つのみしかやらぬ・・・使用する際はその事をゆめゆめ承知してよく考えてから使うのだ。良いな?』
「っ・・・分かったわ・・・!(やったわ・・・これでもしもの時の保険は手に入った・・・後は少しでも私の思うようにするために動くのみよ・・・!)」
ローレライは色々考えた上で特例で一つだけ渡すのだと言い、その言葉に内外ともに喜色を滲ませながらティアは返す。これで後はどうにでもなると思いながら。









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