避けえぬモノと向き合い越える

(どうして・・・ローレライの力を取り込んだ時ならともかく、今の兄さんに今の私の攻撃がロクに効いてないなんて・・・!?)
・・・そしてヴァンと戦う中、ティアはティアで自分の攻撃が効果が薄いという事に気付き始めていた。そんなはずがないと、そう半ば逃避気味な考えを抱く形でだ。
(確かに私では兄さんと真正面から戦っても分が悪いのは承知してたけど、アッシュと一緒に戦ってもこんなになんて・・・仕方無いけど、譜歌で攻撃するしかないわね・・・今の私は昔なら使えなかった強い譜歌を知ってる・・・これなら兄さんにもダメージを与えられるはずよ・・・!)
更に考えを深める中でようやく近接戦闘に見切りをつけ、ティアは譜歌を歌う事にすると手を止め詠唱に入る。



・・・譜歌で攻撃する、この判断自体は間違いではなかった。だが冷静に状況を把握した上でではなく、頭に血が上り大ダメージを与えることにだけ考えをいかせたティアは失敗した・・・それは距離を空けず、その場で立ち止まって詠唱に臨んだ事だ。



「ティア!!」
「っ・・・っ!?」
‘ザンッ!’
「ぁっ・・・!?」
瞬間、少し距離の離れたルークからの大きな声にティアが何事かと反応するが目の前に来ていたヴァンが・・・無防備になっていたその体を切り払い、ティアはまともに声を上げる事も出来ずに地面へと倒れこんだ。



(ティアっ!くそっ・・・邪魔しないようにって少し距離を空けてた事が裏目に出た・・・っ!)
ルークはその光景に自身への怒りを覚えながらも、アッシュの横へ踊り出る。
「邪魔だ屑が!」
「邪魔だとかんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!俺の事なんか気にせず集中して戦え!じゃねぇと今のティアみてぇになんぞ!」
「っ、チッ・・・!」
「アニー!ティアを診ろ!まだ息はあるはずだ!」
「はい、ルークさん!」
(ティアの事は気になるけど、だからって今師匠を放っといてアッシュまで危機に晒すなんてのは避けないと・・・今はアニーに診てもらって無事だって信じるしかない・・・!)
すぐさまアッシュから罵倒が飛んでくるがすぐにティアを引き合いに出して黙らせ、アニーに指示を出してヴァンと対峙しながらルークは気持ちを引き締める。ティアにこだわって状況を見誤る訳にはいかないと、熱くも冷静な判断を下す形で。



「・・・怪我は・・・致命傷には到ってないようですね」
「う・・・グ、グミを・・・」
「意識もある・・・ならライフボトルではなくグミを上げますね」
その傍ら、アニーは倒れこんだティアが苦痛に歪んだ声を漏らす様子を見てアップルグミを取り出し、口に入れ込む。
「っ・・・痛っ・・・どうしてレモングミじゃないの・・・!?」
ティアはそのアップルグミを飲み込みダメージが和らいだ体を起こし痛みに声を上げる中で、即座にアニーを責めるような目を向ける。自分のダメージなら回復量の少ないアップルグミではなく、レモングミが妥当だろうといった様子で。
「・・・回復をするなら自分でしてください。そしてその上でまださっきのように戦うかどうか、決めて動いてください」
「っ・・・何よ、その言い方は・・・!」
「・・・今ヴァンさんにどういった状況になってやられたか、分かって言ってるんですか?端から見ていたら不得意な接近戦を強行して、効果が薄いからとヤケになってヴァンさんに近い位置にいるにも関わらず譜歌を歌って無防備な姿を晒した・・・たまたま運がよかったからまだ回復が出来る状態となって間に合いましたが、ヴァンさんの剣がもう一歩踏み込んだ物だったらティアさんは死んでいたんですよ?」
「!?」
そこでアニーは普段のアニーらしからぬ様子で突き放すような声と視線を向けてティアはすぐさま噛み付くが、ハッキリ口にされた可能性に表情が青ざめた物になる。自分が死んでいたかもしれない・・・そう嫌でも理解せざるを得ない言葉に。









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