心は揺れ動く、良くも悪くも

「・・・すみません導師。少々お願いがあります」
「・・・なんでしょうか、市長?」
そこで改まってイオンに頼みと言ってきた市長に、気を取り直しつつ何事かと問い返す。
「現在のダアトの状況ですが、大詠師が殺されたという事態もあって混乱が未だ収まらない状態となっています。ですので今皆様が忙しいというのは百も承知ではありますが、ダアトに向かっていただいて混乱を落ち着かせるように動いてはいただけませんか?」
「混乱を、ですか・・・どう思いますか、皆さんは?」
「今後の事を考えれば僕はダアトに行くべきだと進言させていただきます。むしろ今行かずに後に行けばその時導師は何をしていたのかと言った声が出てきて、戻った時に反発が起こりかねません」
「っ・・・それは・・・」
「そういった声を抑えるためにも今の内に一度ダアトに戻れば面目も立ちますし、上も下も一先ず安堵出来ると思います。導師がいるのならと」
「そうですね。それにダアトにいる他の方々の意思統一を図る事も必要になるでしょうから、私も一度ダアトに向かうべきだと思います」
「ジェイドまで・・・分かりました。他の皆さんも反対でないというのなら、ダアトに戻ります」
「おぉ!ありがとうございます、皆様!」
市長はそこでダアトに行ってほしいと願い出るとイオンは周りを見ながら意見を求め、ヒューバートとジェイドの言葉で決意を固め頷き勢いよく頭を下げる。
「・・・おい、ちなみに聞くがダアトにヴァンに他の六神将は戻ってきているのか?」
「っ・・・いえ、そういった報告は受けてはおりませんが・・・」
「・・・フン、ヴァンの野郎ダアトに見切りをつけやがったか。もう戻る必要はないと見てな」
そんな時にアッシュが空気を気にした様子も見せずヴァンについて聞き、市長はどもりながらも否定を返したことに自分の考えを嘲るように漏らす。
「アッシュ・・・となれば、ダアトにヴァンに六神将は戻ってこないと見ているのですか?」
「そうだろう・・・進んで戻ってくるとしたならディストくらいだろうが、それも六神将の中で最もモースと繋がっているからこそだ。そのモースが死んだと聞けば、奴ももうダアトに寄り付く事はないだろう」
「そうですか・・・となれば彼らの行方を探すことが今後の目的になるのでしょうか・・・」
「そうなるだろうな」
ナタリアがその言葉に補足を求めるように疑問を向ければ、自信を持ったアッシュの断定に考え込むように声を上げる。
「まぁ謡将達に関してはまたグランコクマに戻った時にでも話すことにして、そろそろダアトに行きましょう。元々我らの役目はユリアシティの方々に話を聞いていただき協力してもらうことだけの予定でしたから、滞在時間が長くなってしまえばそれだけグランコクマに戻る時間がかかることになりますからね」
「そうですね、そうしましょうか」
そんな流れを断ち切るようにダアトに早く行くようジェイドが言えば、イオンはすぐに頷く。
「では市長、僕達はこれで失礼します」
「はい・・・あ、その前にティアだけ少し残してもらえませんか?すぐにそちらに戻らせますので」
「ティアをですか?僕は構いませんが・・・どうですか、ティア?」
「・・・私も構いませんが、何故私だけ残すのでしょうか?」
「・・・個人的に少し聞きたいことがあってな」
「・・・分かりました。ではイオン様達は先にダアトに向かってください」
「はい・・・では失礼します」
それで退出しようとするが市長がティアを残してほしいと思い出したように言い出したことに、当人が決して明るくない表情ながらも是と返したことでイオン達はティアを残して退出していく。








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