崩壊し行くかつて

・・・だがそれもこれも、元はと言えばアッシュがキムラスカに戻らないと頑として譲らない事が原因と言えた。

あくまでこれは仮定の話ではあるが、それでも以前の時にアッシュが戻ろうと思えば戻れたのだ。キムラスカに。ただアッシュはアッシュなりに戻ることは出来ないという意地に考え方があったために戻らないと選んだのだが、それでも戻らないと選ぶのだったら・・・ナタリアに嫌われるフリでもなんでもして、自身に心残りがあったとしてもナタリアとの繋がりを断つべきだったのだ。自身の為にも、ナタリアの未練を断つ為にも。

・・・そして結果として、そんなアッシュとナタリアに挟まれながら肩身の狭い想いをするルークが無条件に幸せになるなどあるはずがない。更に言うなら、そんな状況がずっと続くのか?・・・おそらく、いや間違いなくそんな状況が続くわけがないと言えた。二人の性格もそうだが、ティア達の性格もあってだ。

旅の間のアッシュとナタリアの様子を見ていたティア達の事だ。一月の間では様々な仕事に忙殺されていたために何も行動を起こすことはなかったが、時が経つにつれて次第にこう考え動くこととなっただろう。‘ナタリアと似合いなのはアッシュだから、どうにかアッシュを探しだしてくっつけよう’と。

これに関してはティア達だけでなくルークも同調し、最終的にはナタリアもアッシュに対する想いを諦めきれずに行動を起こすことを是とするだろう。そして世界規模でアッシュを探すという状況になるのが予想がつくが・・・その後、ルークにとってあまり良くない展開になる可能性が非常に高い事をティア達は予想していなかっただろう。そしてその理由となるのはアッシュがルークを嫌っていることもあるが、ルークのレプリカという生まれ方にもある。



・・・何だかんだあっても一度目にヴァンを倒した後にルークが何のおとがめもなくファブレに戻れたのは預言を実行する理由が無くなって真実が明らかになったからであるが、それ以上に大きな理由としては『ルーク』というヴァン一味から世界を救った英雄がファブレに戻るのは当然という見方があったからである。ファブレはキムラスカの王族に連なる名門で『ルーク』はそこの子息と、そういった認識があったために迂闊にルークを排除出来ないとなる形で。

ただこれはあくまで一方向からの見方でしかないし、ファブレの人間がルークに対して情を全く持っていなかった訳ではない。公爵は申し訳ないという気持ちもあったし、夫人に関しては尚更にルークに対する情があるからこそ一層歓迎はしてくれた・・・だが、だ。それはあくまでもアッシュが戻らないことを選択したからこそ、丸く収まったようになっただけである。

ここにもしアッシュも共にキムラスカに戻るとなっていたならどうなっていたかを仮定すると、どうか?・・・おそらくインゴベルトに公爵に夫人はともかくとしても、アッシュという本物の『ルーク』がいる以上はルークはその立場もあってややこしいからとどう少なく見ても権力から遠い位置に持っていくような形に貴族達がしようとするのは目に見えた。当時はルークとアッシュの事実は人々の間にそこまで伝わっていない為に、下手に二人の関係を明らかにするよりはいいだろうと。

ただそれで公爵達が何とかして二人の共存を望んだとしても、アッシュがルークの事を強く拒否し続けたらどうなるだろうか?この屑と一緒にいるのなんざごめんだ、などと言い続けたらどうなるだろうか?・・・二人とあまり繋がりのない者達は確実に言うだろう、‘アッシュ様の為にもルーク様を引き離した方がいい‘と。

ここまで来てしまえばもう後は取り返しのつかない状況としか言えない・・・周りがいくら仲良くしてほしいと願った所で当人にその気が一切ないどころか、反発しかせずに改善の様子がないのであれば手っ取り早くそうした方がいいと選ぶのが利口な選択なのだ。少なくともキムラスカ側からして穏便でいて、確実に安全な方に事を進めたいと思うならだ。

そしてそうなればルークとアッシュの二人のどちらをキムラスカが優先して今後の事を考え、次期キムラスカ王にするために手元に残そうとするか・・・絶対とは言わないが、まず本物の『ルーク』であるアッシュを残すのは間違いないだろう。本物という立場もあるが、王女であるナタリアが想いを寄せているのは明らかにアッシュの方である為に。そして残ったルークは良くて公爵の庇護によりベルケンドにでも送られ、悪ければそれこそ何らかの思惑により殺される可能性もあるだろう。それこそ様々な可能性があっての上でだ。



・・・あくまでこの例えはもしもでしかないが、アッシュとナタリアの二人の行動はルークにとって多大な危険を産みかねなかったのだ。そしてティア達はそれを分かろうともしていなかっただろう。







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