事態は予想出来ぬ道へ向かう

「・・・追わなくていいんですか、イオン?」
「・・・多分今のアニスに何を言ってもこちらに戻っては来ないと思いますし、しばらく時間が必要だとも思います。戻ってきたなら神託の盾を辞めるのは改めて考え直してもいいとは言いたいと思いますが、それでアニスが思い直してくれるかは僕には分かりません・・・」
「っ・・・ですがあのアニスは異常です。ちゃんと話をしないと・・・」
ナタリアがその光景に追わないのかと気まずそうに聞きイオンが複雑そうに首を横に振る姿を見て、ティアは異を唱えるよう立ち上がりながら近付こうと足を動かす。
「フン、一々あんな奴を気にかけて何になる」
「なんですって、アッシュ・・・っ!?」
が、アッシュが吐き捨てるように言い放った一言にティアは怒りに足を止めてそちらを睨み付ける。
「ハッ、気に障ったか?だが事実だろう。勝手に心が折れるような奴を一々引き止めても何の役にも立たん」
「っ、貴方は・・・!」
「やめてくださいましティア、それにアッシュも!こんな時に私達が争うなんていけませんわ!」
「っ・・・分かったわ、ナタリア・・・」
「・・・運が良かったな、女」
「っ・・・!」
アッシュは気を使うどころか逆に嘲りをハッキリ口にしティアもたまらず武器を手に取りかける・・・だがナタリアが間に入って悲痛な声で制止をかけたことで渋々ティアは手を引くが、アッシュが視線を外しながらまた漏らした挑発的な言葉にギラリと射殺さんばかりの目を向ける。一度納めた矛を再び向けるわけにはいかないと、かろうじて残っていたプライドを用いて留まる形で。
(どうしてこんな、ギスギスとしなければならないのでしょうか・・・?僕達は同じ立場にいるはずなのに、なんでこんなに皆の心が一致しないのでしょう・・・?)
イオンは二人の姿に加えアッシュの方を見て複雑そうにナタリアが表情を歪める姿に何故、とたまらず考え込んでしまう・・・だがこれはある意味、必然と言えば必然の事であった。



ここにはいないがルークはアッシュを引き込むと決めた時、自分との衝突は何度かあると思っていた。そしてアッシュが付いてくると知ったティアからしても同じような印象があった・・・だが二人は失念していた。アッシュはルークを相当に嫌悪していはしたが、かといって他の人間に対して全て優しかったのかと言えば決してそうではないということを。

これはアッシュがルークに対してかなり苛烈だったということが記憶に強烈にあったこともあり、それと同時に前にアッシュと話をした時には誰もその乱暴で無配慮な言葉を真に受ける者がいなかったからなのだ。その点でジェイドは効果が薄いことにナタリアにはそういう言葉をかけないから除外するとしても、ガイ達が精神的に弱っている時にアッシュがいたなら前のような事にはなっていなかっただろう。最悪の場合、ガイに不用意な事を言っていたらアッシュが殺されていた可能性すら有り得たと見てもいい。

・・・二人はそういったアッシュの傍若無人ぶりを考えていなかった・・・その点ではルークにも確かに非はあると言える。が、今のこの場にルークはいない。いるのはティアで、アニスを刺激してアッシュと対峙したのもまたティアなのだ。全ての責任とは言わずとも、ティアが責任の大きな割合を占めているのは確かな事と言えた。場がこのような空気になっている理由は。












・・・結局その後、気まずくも重くなった空気の中で発言するする者はおらず、部屋の中は痛い程の緊張感と共に沈黙がしばらくの時間を支配した。アドリビトムの面々が戻ってくるまでを。

だがそれでアドリビトムの面々が戻ってきてもティア達の間での空気が良くなる訳でもなく、しばらくしてからその空気に居たたまれなくなった面々が何人か部屋を移動した。ルークとガイのいる部屋の方へと。












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