否応なしに変動する関係

「まずは改めてそちらに礼を言おう・・・そちらのおかげでアクゼリュスの者達は無事に助かるばかりか、事が落ち着くまで預かってもらうことになったのには色々と助かった」
「いえ・・・こちらもこちらの思惑があって動いたまでの事です」
「それは分かっている・・・そしてその上で重要なのはこれからだ」
そのまま礼をと油断なく見据えながら告げるピオニーにユージーンが謙遜したよう応対するが、すぐに切り出された本題とばかりの声にルーク達の周辺の空気が一気に引き締まる。
「確かにアクゼリュスの住民は助かった・・・が、それはあくまでこちらにとってめでたしめでたしと言えるような結果であってキムラスカ・・・そしてバチカルにいるというモースにとってはそれが望むべき終着点ではない。あくまで向こうが望むのは預言に詠まれたという、戦争だ」
「っ・・・ですがそれなら、私が取り成せばお父様も聞いてくださるはずですわ!そのような形で戦争をするなど愚かなことだと考えてくださるはずです!」
「・・・そうなってくれるならこちらとしても確かにありがたいことではある。が、それを確実な物とするには是が非でもこちらからして必要な事が一つある・・・それはこちらからキムラスカに伺いを立てるのではなく、キムラスカから真偽を確かめるための人間を引き込まねばならんということだ」
「え・・・?」
ピオニーは改めてどうやって戦争を止めるかとの話題に入るがナタリアが信用してほしいとばかりに割って入ったことに、必要な事を挙げられキョトンとする。意味深な言葉に。
「昨日言ったが、こちらから貴殿らをキムラスカに戻したら多大な危険が生じる可能性があると言っただろう。ならばこそ逆転の発想として貴殿らをキムラスカに戻すのではなく、キムラスカから誰かをこちらに招待して事情を説明した方が安全ではないかと思ったんだ。無論、あちらから見ての考えではなくこちらからの考えとしてな」
「成程・・・回りくどいと思えるかもしれませんが、もしもの事を考えるならその方が安全ではありますね」
「名案ですわ!それならお父様も賛成してくれるはずです!」
「待て、事はそう簡単じゃない。この考えを実行するには最低でも大詠師がこちらに来てもらわないと成立しないんだ」
「え・・・何故モースが・・・?」
その言葉についてを軽く説明するピオニーにジェイドも賛同した事で意気揚々とナタリアが賛成するが、条件がモースが来ることが必要と返され首を傾げる。
「殿下や導師などの反応を見る限りでは、インゴベルト陛下より大詠師が心変わりしてもらわなければ厄介なんだろう。事実、こちらから見てもそんな預言をこちらの立場も考えずに実行させようとしてきたのだから最も厄介と見ている。だからこそ大詠師にはもうそうさせるのは無駄だと示すこともそうだし、最悪こちらの言い分を受け入れないにしても・・・大詠師の身柄を拘束さえ出来ればそれでいい」
「なっ!?何故拘束などといった言葉がそこで出てくるんですか!?」
「今も言ったが、大詠師は向こうの中で最も厄介な存在となる。まず大詠師がこちらに足を運んでくれるかどうかは知らんがもし心変わりしてくれるならそれでよし、心変わりしないなら・・・最早マルクトの敵以外の何物でもない。導師には悪いとは思うがな」
「で、ですが拘束をするなんて・・・」
「言っただろう、これはあくまでも最悪の場合ならだ。そしてもっと言うなら現実としてそれらを向こうに望んでも要求が受け入れられないばかりか、嘘だとか親善大使を返せとか突っぱねて来る可能性すらある。こちらの意向を無視する形でだ・・・そんな中で可能性は低いながらも大詠師が直々に来るとなれば、それはもう千載一遇のチャンスとすら言える。それを見逃す訳にはいかん」
「っ・・・!」
そこで冷静に感情を控えた顔と声で拘束と予測していなかった言葉がきたことにイオンが目を見開きながら叫ぶように声を上げるが、全く動じることなく覆すことはないといったようにピオニーに返され言葉を失う。
(・・・ピオニー陛下の立場を考えると、厳しい所じゃあるんだよな・・・それくらいの事はしないと危険なのは確かだろうし・・・)
その光景を見ながらルークは内心でピオニーに賛同しつつ同情する。イオンにそこまで言わねばならないほど現状は厳しいということを理解しているから。







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