焔と予想外の想いが絡まる始まり

「ん・・・ううん・・・はっ、ここは!?」
・・・かつてファブレにいたヴァンを襲いルークと共に飛んだタタル渓谷のセレニアの花畑の中。そこで意識を覚醒させたティアは寝ぼけた声を上げながらも一気に目を覚まして起き上がる。
「・・・っ、ルーク・・・っ!」
少し離れた所に前と同じように横たわるルークがいる事に、ティアは笑みを浮かべるがすぐに表情を引き締める。
「・・・前の通りにいったようね。これで私が前のよう、いえ前以上にルークをちゃんとした人になるよう見ていけば・・・ルークが生きることが出来て、私と一緒にいる未来が来る・・・!」
そして口にされるのはルークを導かねばという使命感に満ちた物だがティアは気付いていない・・・いや気付こうとしないだろう。それがいかにルークの未来を狭めるのかもだが、それがいかに自分本意な事を言っているのかを。でなければ今の時点でそんな先の事を言えるはずがない。
「ん・・・」
「っ、ルーク・・・!」
ふとルークが顔をしかめて声を漏らすその声に、ティアは慌てて顔を覗き込む。












・・・それでルークも起きたばかりで鈍くなった頭をフルに回転させ、一応前と同じようなリアクションを取っておいた。この辺りでの差異はまだ作ろうと思わなかった為に。

そんな流れで前のように渓谷を降りることになったルークとティアだが、ここでルークは前回とは明らかに違う差を感じていた。それは・・・



(前、こんなにティア詠唱中は守ってなんか連続して言ってなかったよな?それになんかあんまりにも詠唱をする時の位置が不自然っていうか、むしろ魔物の方に寄ってる気が・・・)
ティアの戦闘の仕方が前に比べ雑と言うより、意図してすらいるかのように魔物が近い位置で詠唱を始めてると見ていたのだ。ルークは。
(正直一々フォローに入るの面倒なんだけど・・・どうしたんだ、ティア?根本的な部分では差はないみたいにローレライは言ってたけど、リグレットがティアにあまり教育を施してなかったのか?・・・言っちゃなんだけどこれならまだ俺一人で戦う方がマシだ。こんな戦いしか出来ないならティアはいない方がいい・・・あー、どうやってティアに戦わないでいいって言おうかな・・・?)
更にルークはこれが違いかと内心首を傾げながら、ティアは戦うべきでないと考える。邪魔になるからと直接的に今の自分で思わせない言い方を探すよう・・・



(いい調子ね・・・ちゃんと指示を出せば私をフォローに来てくれる・・・これで周りを見る目を鍛えられるはず・・・)
一方ルークの後ろを歩くティアはいい調子と内心で笑みを浮かべていた。ルークを鍛えられていると。
(これで前以上になっていけば、私の詠唱を途切れさせないようにルークはフォローに入ってくるようになるわ。そう思えばこのタタル渓谷という場所は旅を始めるまで経験のないルークを鍛えるのにちょうどいい開始点ね。ちょっとの怪我なら私が治してあげれるから、多少の無茶はきくもの・・・これも後の為よ、ルーク。今度は私も貴方を鍛えてあげるから、ここの魔物は出来る限り貴方が倒すのよ)
更には自分もルークを鍛えると意気込みつつ、怪我は治すから魔物を倒せとティアは言い切る・・・



・・・一方は相手を気遣い、一方は気遣ってるように見えてただ自分の基準を相手に求めてるだけ。言ってしまえばこの二人の心の距離は以前と比べるまでもないほど距離が大きく開いてしまっていた・・・それも片方があまりにも利己的過ぎるが故に。そしてその片方とは・・・ティアである。

ティアからすればルークのいち早い成長は必要不可欠なのだろう。後の展開の為にもだが自分の為にも。だがだからと言って今の時点のルークは前で言えば魔物すら殺したこともない・・・ただ剣術が多少使えるだけのお坊ちゃんなのだ。そんな人物に成長を願うからと周りを見ながら魔物を倒せというのは酷だろうし、更にはわざと自分がピンチの状況を作るなどやっていいことと言えるだろうか?・・・いや、言えるはずがない。

現にルークはティアの思惑に気付いていないが、それでもその行動のタチの悪さにはこの少しの時間でかなり辟易としていた。前のようにと今は力を抑えてはいるが、前の経験があってそれがいかに自分の枷になっているのか・・・ティアのその要求が過度であるだけに、余計にわかるため。



・・・行動と思いやりの在り方に差がある。善意と善意の名を借りた悪意と言ったように表現してもいいくらいに。そんなルークとティアは順調(なのはルークが不自然でない程度に出来る限り魔物を避けて行動したため。反対にティアはさりげに魔物側に誘導しようとしていたが、そこもルークがうまく避けて動いた)にタタル渓谷の入口に辿り着いた。










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