徐々に近付く変革すべき時

「まぁもう仕方ないだろ。本人が頑なに話すことを拒否してるんだし。それにそんな事を言ってるのに擁護するってのは違うだろ。向こうがこっちの申し出を拒否してんのにそれで尚庇いたいってのは、単なる自己満足に押し付け以外の何物でもないんじゃないか?」
「それは・・・いえ、そうなんでしょうね・・・偉そうな事を言うつもりではないのですが、必要以上にティアに肩入れすることはやめた方がいいんでしょうね・・・」
ユーリは必要以上に落ち込まないように言い含ませれば、イオンも首を力なく横に振りながら納得する。
「しかしあれだけ頑なな態度を取るんだ。本来ならファブレ邸に侵入した理由を聞かねばならないのは確かだと思うのだが、バチカルに着いても何も言わないと言うのならその次第では無理にでも理由を言ってもらうか・・・さもなくば、キムラスカの上層部の意向次第では神託の盾を辞めさせた上で引き渡すべきだと俺は思う」
「っ・・・そこまで、ですか・・・」
今度はユージーンがティアの引き渡しについての言及をすると、イオンはまた暗くうつむく・・・だがユージーンの言っていることは間違っていないのだ。モースが何事もなくヴァンだけの責任として済ませたように見せたが、ティアの事は本来ならキムラスカに引き渡さねばならないことだということは。そして黙秘を続ければ続けるほど立場をティア自身が悪くしていく為、イオンが擁護するのはお門違いになっていくことも・・・












・・・そのようにティアに対するマイナスの気持ちがイオンに襲い掛かる船はバチカルへと進むのだが、いかに船とは言えケセドニアからバチカルまでたった一日で着くわけがなく時間は夜になった。



「・・・ふぅ」
・・・そんな夜の船の甲板の上、眠るミュウを起こさないようにしながら部屋を抜け出したルークは一息つきながら夜空を見上げていた。
「あら、眠れないのかしら?」
「ジュディス・・・いや、ミュウの事が嫌だって訳じゃないんだけどさ・・・一人の時間がない事がちょっとな・・・」
「・・・素を出せないのはやっぱり辛いのかしら?」
「辛い・・・って言えば辛い、のかな。今までだったらガイとかいても部屋の中に戻ったら俺一人になれる時間もあったけど、ミュウは俺にずっと付いてるって言うからさ・・・あんまり表情を変に崩せないんだよ。ミュウは俺の事よく見てるし」
「そう・・・」
そこにジュディスがやってきて素でルークは返すのだが、ミュウの事を理解した上で本音で接することが出来ないもどかしさを苦笑いを浮かべながら返す。その言葉にジュディスの表情が悲し気に揺れた。
「・・・どうしたんだ、ジュディス?」
「・・・ねぇ、ルーク。ライマでの暮らしでアッシュ達への考えを自分の中で折り合いをつけたというのは分かるのだけれど、貴方は一人で寂しくなかったのかしら?」
「寂しく、か・・・いや、それはなかったよ」
ルークもその表情に気付き何事かを問うが、反対に自分が問われ返された事にそっと首を横に振った。
「覚悟はしてたことだったしさ。元々ライマを出るって事は。それまでは皆と一緒だったから別にそんな風に感じたことはないよ」
「・・・ごめんなさい、ちょっと私が聞きたい事の言い方を間違えたからもう一度聞き直すわ・・・貴方の事を分かってくれる人が近くにいないことを、寂しいと思ったことはないのかしら?」
「え?・・・分かってくれる人が、か・・・」
それで微笑を浮かべルークは返すのだが、聞きたい事のニュアンスが違ったと少し申し訳なさそうに言い直すジュディスにキョトンとしかけながらも考え込む。そのニュアンスの違いをちゃんと受け取り、寂しくなかったのかを返せるように。






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