聖闘士の決断と双子の片割れの苦渋

『理解していただけたのなら結構です。ただこれは予告になるんですが、今からそちらにお伺いします』
『・・・何?』
だがムウはそんな空気などさっさと排除せんばかりに唐突に来訪を宣告し、カノンは呆けた声を上げてしまう。
『おいムウ、一体どういうつもりだ?』
『今この場がどこか分かっていますか?海の上を進む船の上ですよ?いくら念能力に自信がある私でも、大陸越しにテレパシーを向けるのは無理がありますからね。それで報告の為にここまで飛んできたんですから、少し会うくらいは当然の流れだと思いますが?』
『っ・・・お前まさか、もう船の上にいるのか・・・?』
『そうですよ。それともまさか貴方はわざわざ船の横を飛びながら通信している私の姿でも想像していたというのですか?』
『・・・いや・・・(流石に言えんな、それくらい平気でやるだろうとは・・・)』
すぐに気を取り直し改めてどう言うことかを問うカノンにムウは船の上に既にいると言いつつ変な事を想像してないかと指摘をすると、一言で否定を返す。だが内心そう思ったことはカノンの秘密だった。
『・・・どことなく嘘をついているような気がしますが、まぁいいでしょう・・・それはさておきとしても、貴方とは冥界に行く前の聖域で一度顔を合わせたきりです。なのにこのように顔も合わせず無粋な会話ばかり交わすのも味気無いと思いませんか?これは少し前に貴方を見つけた時にも思ったんですけどね』
『っ・・・成程、それは確かに無粋だったな・・・折角このようにして再び会える機会だというのにな』
ムウはそんな内心を鋭く感じ取っていたがあえてスルーした上で話を進め、かつての事を切り出すとカノンは自分が無粋だったと認める・・・二人が会ったのはハーデス率いる冥界との戦いでサガ達が聖域にやむなく攻めこんできた時にチラッと顔を合わせた程度で、その後ロクに会話を交わすことなく互いにアテナの為に命を懸けた男達が再び会えたというのに、そんな報告だけで終わらせるのは確かにムウの言うよう無粋と言えた。
『・・・よし、会おう。お前から来てくれるんだったな、ムウ?』
『えぇ、貴方はルークという人物からあまり離れられない状況にいるようですからね。私から向かいますから、少々待っていてください』
だからこそカノンは頷き、ムウも事情を察した上で向かうと言い通信を切る。



「・・・・・・来たか」
「・・・お久しぶりですね、カノン。実際に顔を合わせて話すのは初めてになりますね」
「あぁ、そうだな」
・・・それで少ししてデスマスク達の衣服と違って私服の民族衣装で現れたムウにカノンは口元に笑みを浮かべて応える。
「ミロと共にいたと聞いたが、あいつは元気か?」
「えぇ、彼も遅かれ貴方に会いに来るでしょうが会えるのを楽しみにしていると伝えてくれとのことでした。その辺り彼はマメな人ですからね」
「そうか・・・」
それでミロについて切り出すカノンにムウは微笑みながら伝言を口にし、つられて口元に笑みを浮かべる・・・カノンにとって黄金聖闘士の中でも拳を含めた上で確かな会話を交わし友情までもを形成したのは状況のせいもあってミロのみ、そうであったが故の友からの言葉は何より嬉しい物であった。
‘ガチャッ’
「っ・・・なんだカノン、そいつ誰だ・・・?」
「ルーク様・・・どうされたのですか?」
「いや、カノンの所に行こうってドアを開けたら知らない誰かといたから驚いたんだよ・・・」
「そうですか・・・」
そんな時に部屋の扉が開き、驚いた様子のルークが現れた。カノンはその姿に部屋を出た訳を聞くと、大したことないと言った様子ながらもムウを見ながら戸惑ったままのルークに一つ納得する。
「これは、紹介が遅れましたルーク様・・・私はムウと申します。かねてよりデスマスク達から聞いておりましたので、貴方の事は伺っています」
「デスマスク達の?どうしてこんなとこにいるんだ?」
「私は少々別にやることがありましたので、彼ら三人とは行動を共にしていませんでした。ただ別件でバチカルに用があったので船に乗ったのですが、そこでカノンの姿を見かけたので声をおかけしました」
「へぇ~、そうなのか・・・」
ムウはそこで即座に臣下の礼を取るように丁寧に自己紹介をし、カノンとの合流の訳を当たり障り無いものにして口にする。その自然な様子に、ルークからは疑う様子もない納得の声が漏れた。







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