聖闘士の決断と双子の片割れの苦渋

・・・イオンに向けてデスマスクが告げたこと、これは実はデスマスク自身の体験談である。

十歳という若さで黄金聖闘士という立場についたデスマスクは戦うことで平和を守る人生を生きてきて、力こそを信条として時には女子供を問わず殺したこともあった。迷うことなく。

しかしそんなデスマスクも最初は迷うことはあった。力を使うことの意義を。ただそれは本人の元々の素質であったり、積尸気を扱う素養があったことで力を使うことに躊躇いを持つことは聖闘士の中でも比較的早くになくなった。

・・・デスマスクは幼き頃に考え得た結論を、それを無駄と思ってはいない。ただ紫龍との戦いでは力の使い道を誤り聖衣に見捨てられこそして多少思い直しはしたが、それでも今の自分があるのはその時間があったからだと思ってる。



(ま、こんなこと言うなんざガラじゃねぇがな)
イオンの姿にデスマスクは内心で笑う、自分の事を引き合いに出すなど自分らしくもないと。
「・・・すみませんでした、デスマスクさん。時間を取ってしまって。僕は少し色々と考えてみたいと思います・・・また後で」
「えぇまた後で」
そんなことを考えているとは知らずイオンは一先ずの別れを告げ、デスマスクは身を翻すその姿に一言そっと向ける。
「・・・で、どうした嬢ちゃん?俺に何か用か?」
「・・・タルタロスで会った時から思ったけど、結構裏表激しいんですね・・・」
「裏表って程じゃねぇよ。ただ使い分けてるだけだ。それよっか何か用があるから残ったんだろ?別に俺は敬語とか気にしねぇからなんでも言えよ」
「・・・ならそうする」
しかし一人残ったアニスに口調を崩し話しかければどこか妙な固い緊張を宿した返事が返ってきた事に、デスマスクは軽く笑みながら遠慮するなと言う。アニスはその声に少し気を抜いたように口を開く。
「あのさ、あの二人もだけどデスマスクって誰かに仕えてるの?」
「あ?いきなりどうしたんだよ?」
「・・・正直あたしから見たら、デスマスクってそんな誰かに忠誠を誓うようなタイプに見えないんだよね。あたしとかに向けてる言葉遣いの方が素なのは分かるけど、イオン様やルーク様に対しては一貫して敬語を外さない上に凄く慣れてる感じがあるし・・・それで誰かに仕えてるのかなって思ったのもあるし、誰に仕えてるのかなぁって思ったんだけど・・・」
「成程ねぇ・・・」
それでアニスから聞かれたのは誰かに従事してるのかとそう思った根拠つきの話で、デスマスクも筋が通ってるだけにそっとアゴに手を添える。
「ま、仕えてるっちゃ仕えてるな。ただそれを言うことは出来ねぇし、名前を言っても有名じゃないから嬢ちゃんは分からねぇだろうな」
「有名じゃないって、キムラスカの貴族の誰かじゃないの?」
「貴族・・・へっ、ある意味そんな領分なんざ関係ない場所にいる方さ。それで俺もだがアイオロスにカミュも、その方に仕えてるぜ(ま、流石にカノンを入れたらややこしい事になっちまうからカノンに関しちゃ言えねぇけどな)」
手を離してデスマスクは肯定はしつつアテナの名や身分については誤魔化し、その存在が大きな物であると言いつつ心中で一応はカノンを気遣ってここでは言わずに済ませた事を軽く笑う。
「・・・どうしてその人にデスマスクは仕えてるの?言っちゃ悪いけどそんな誰かの下につくのとか嫌がるタイプだと思ったのに・・・」
「そいつに関しちゃ度量を見せられたからだ。主として相応しい度量をな。つっても金につられたからとかじゃなくて、その方は俺を納得させることをしてくれた。だから付いていくと決めたんだよ、その方にな・・・で、俺に嬢ちゃんが聞きたいことの狙いはこのままあの導師に付き従っていいのかってことか?」
「え!?・・・なんでそんな事、いきなり・・・!?」
アニスは更に仕えてる理由を問いデスマスクは淡々と答えるが、その中で話の流れで向けた問いにアニスはたまらず驚き口元に手をやる。
「いきなりそんな質問する意味を考えてみたんだよ・・・元々嬢ちゃんは元々大詠師のスパイをやってるその上で、俺に今の質問をぶつけてきた・・・それを結び付けて出てきたのが、導師に対して嬢ちゃんが申し訳ない気持ちになっててこのまま仕えていいかわからなくなってるんじゃねぇのか?・・・って考えだ」
「・・・嘘・・・当たってる・・・」
「今のタイミングで来たことに何かありげな感じがありゃこれくらいわかる。それに導師が離れた時じゃないと話しにくい事となりゃ、尚更見当をつかせやすかったぜ」
それでそう思った理由を一応周りに気を遣った上で少し距離を詰め、小声で語っていくデスマスクに呆然とするアニス。だが当の本人は簡単な事だったと愉快げに口角を上げた。







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