聖闘士の決断と双子の片割れの苦渋

「・・・見ましたか、この軍港を」
「えぇ、酷い有り様です。今現在も何とか軍港を復旧させようと人々が忙しなく動いています」
「・・・そしてこの事態を引き起こしたのが、アリエッタ・・・」
「・・・差し出がましい事をお聞きしますが、アリエッタとはどのような関係でしょうか?」
それで会話を切り出すイオンにデスマスクは丁寧ながらもあえて正直に言って早く流そうとするが、アリエッタの事を重く口にするその姿に先を促す・・・自分の言うことを聞いてほしいと、そうイオンが言外に訴えていると思った為。
「・・・彼女はアニスの前の僕付きの導師守護役でした。ですが2年前に彼女が導師守護役から外されアニスが僕付きになってから、彼女は六神将になって・・・」
「(・・・成程、どうやら何か2年前に起こったようだな。それでその何らかの理由から導師守護役を辞めさせられたって訳か、あの嬢ちゃんは)・・・この港を襲うに至った、と」
「はい・・・アリエッタは僕を本当に慕ってくれましたが、例えアッシュからの命令とは言えこの様なことをしてまで僕の身柄を求めるとは思っていませんでした・・・」
イオンはそのままアリエッタの経歴を話していきデスマスクは心中でそうなった理由を推測しつつその話の先読みをすれば、雰囲気が一層重くなりながらイオンは頷く。
「・・・今アリエッタにはとりあえずですが、この軍港にある牢をお貸しいただいてそこに入ってもらっています。ですがそれもそう長い時間は拘束出来ません。アリエッタはダアトで裁かなくてはならないのですから、船が出港する時にはケセドニアに連れていきダアト行きの船に乗せる為に・・・でもそれをしたらと思うと悲しい気持ちになるんです。アリエッタの罪を裁かなくてはならないという考えに移ると・・・」
「・・・アリエッタが自分を好意的に見てくれるから、でしょうか?」
「・・・それもありますし、アイオロスさんに言われた事を思うとそんなに甘い処置を取れないと考えてるんです・・・この軍港の被害は相当な物です。それを思うと・・・」
「そう言うことですか・・・」
続けて遠からずダアトで裁く上で親しみのあるアリエッタをどうしたものかと非常に悩んでいるとイオンは漏らし、デスマスクも少し複雑げに手を口元に当てる。
(・・・この導師様は甘いなりに色々考えてんだな。ただなんなんだろうな・・・こいつのこの甘さは導師って立場に何年かいるにしちゃなんつーか経験が足りないって言うより、どっちかっつったら根本的な生きてきた年数の経験のなさからの幼さな気がすんな・・・あのルークと同じ意味で・・・)
その心中、デスマスクは今までのイオンと過ごした時間を考えて歳不相応に幼いと感じていた。ルークと似たような感じと。
(・・・ま、こっちは俺らが介入することじゃねぇ。今は導師様のお悩みに答えてやるかどうかだけど・・・ちっと真面目に答えてやっか。別にこの導師様は敵になりそうにもねーし、ウダウダ悩んでますなんてずっと言われたって気分悪くなるばっかだしな)
しかしと気分を切り替えデスマスクはイオンの悩みに答えてやろうと決め、口から手をどけ切り出す。
「・・・私はそれでいいと思いますよ」
「えっ・・・それでいいとは・・・?」
そして出した言葉はそれでいいとの肯定の言葉だが、イオンは予想してなかった答えだったのか何をと首を傾げる。
「考える、と言うことは大事な事です。そして悩むという事も・・・私も昔はどうしたものかとあることで一時期悩みました。ですが私なりの答えを見つけた時、その悩みは悩み足り得ない物へと変貌しました」
「答えを見つけた、ですか・・・」
「えぇ。辛いことと言うのは物にもよりますが慣れることは出来なくても、耐えることは大抵出来るようになるものです。そして慣れていけば辛いと思っていた事に対するその痛みも消えていく物・・・私はそう学び、生きてきました。そして導師、今の貴方に必要なのはアイオロスの言葉に自分の心と向き合い悩む事だと思います」
「心と向き合い悩む事・・・」
「そうです。その悩みから逃げることは簡単ですが、その悩みはいずれまた訪れる物。それが責任ある立場にいれば尚更です・・・だからこそ悩み、考えられてください。今の貴方にはそれが必要だと私は思いますし手助けこそ借りても自分自身に対しての想いはどうするべきかとの結論は自身にしか出せないのですから」
「・・・悩み考える、ですか・・・わかりました、難しいですけどやってみたいと思います・・・!」
それでデスマスクから出されたのは考え悩む事の大事さが如何なものかという話だった。イオンは自身の事まで含めて滔々と語ってみせたデスマスクの微笑に、悩ましげな表情を浮かべていたが決意を込めた表情に変えてそうすると頷いた。







8/17ページ
スキ