聖闘士の躍動と決心

「まぁんなことされちまったらルーク様にファブレ公爵は巻き込まれただけ、としか答えようが無くなるな。何せ本当は協力なんかしてないんだからな・・・んでそこで名前を出した側のあんたにどう言うことだってスポットが当たる。何故ルーク様の名前を使ったとな。そこでルーク様から軟禁の一言が出りゃもうその時点で和平から一転、戦争への流れが一気になっちまう・・・って訳だ。キムラスカの王族であるルーク様の協力があるなどと騙るどころか害を与えようとしたマルクトと和平など結べるはずもないどころか、むしろ戦争だ!・・・とな」
「っ・・・!」
「そんな・・・!」
更にデスマスクから爆弾は投下された・・・それも戦争になると言う、とんでもない爆弾が。話を揚々と抑揚をつけてするデスマスクにジェイドは苦々しげに表情を歪め、イオンは青ざめた表情でデスマスクにすがろうと手を出しながら近付こうとする。
「・・・ま、こちらとしてはそんな展開はあまり望んじゃいない」
「え・・・?」
だが突然真顔で首を横に振ったデスマスクに、イオンの足と手は戸惑いで止まった。
「おそらくルーク様がここにいたなら私と同じような事は仰るでしょう。ですが大佐殿の仰ったことはそう言った心情を入れても戦争へのきっかけとして十分すぎる程の物・・・ですので貴殿方が一つ約束していただければ、こちらの予備の旅券をお渡ししましょう」
「約束、とは・・・?」
そこで丁寧に前フリをした上で微笑を浮かべ約束と切り出したデスマスクに、イオンは神妙な面持ちでその先を伺う。
「何、簡単な事です。私達にルーク様が和平の口添えに協力をしていると言わないでいただくと約束していただければ、それで旅券をお渡ししましょう」
「え・・・それだけのことでいいんですか・・・?」
「はい。ただもう一度でも我が物顔で我々にルーク様の名を出したならその時点で貴殿方にキムラスカに対する敬意は皆無と見なし、軟禁の事実をキムラスカの上層部にお伝えします」
「!」
「・・・ま、これは最後通告と思っていただけたらいい」
「・・・っ!」
それで条件を分かりやすく口にするデスマスクにイオンは最初呆気に取られていたが、破られた場合のペナルティを告げられ驚きに固まった。そして更に追加で一言告げるが、その視線の先にいたのはイオンではなくジェイド・・・その行動と言葉が露骨にジェイドのみに向けられているのは、誰の目から見ても明らかであった。
「・・・それで、どうなされますか?」
「はい、僕はそれで構いませんが・・・」
「・・・いいでしょう、わかりました・・・」
言うだけ言ってデスマスクが最後の選択を迫るとイオンは快くとは言わずとも即答するが、そのイオンから視線を伺うように向けられたジェイドはせめてもの抵抗なのか口調は変えず了承とだけ返す。だが明らかに声色が暗く落ちて眉間にシワを寄せ目をつぶるその姿は不本意と語っていた、デスマスクに完膚なきまでにやり込められた事とルークを利用出来ない状況に仕立てあげられた対して。
「・・・いいでしょう、とりあえずこの旅券を三人にお渡しします。と言っても旅券をお渡ししたことは黙ってていただけますか?こちらはあくまで私共の独断及び非礼に対する詫びでファブレに内緒で渡す代物で、それを例え内密にやるはずだった任務とは言えマルクトの者に渡したと知らされたなら我々もですが貴殿方の立場にも関わりますからね」
「え、あ、はい・・・」
「・・・っ」
それでようやく旅券を取り出し渡すデスマスクだったが、丁寧に渡したことを言うなと注意を添えられた事にイオンは若干ポカンとしかけながら頷く・・・だがデスマスクの言っている事がジェイドのみに向けられているのは、端から見ていたカミュ達からは容易に理解出来た。そしてそれは当人であるジェイドも理解してるのだろう、微妙に悔しげに口角が上がっていた。



・・・デスマスクの言葉は、謂わば予防線の為の物だ。

色々言いはしたものの、デスマスクはこの世界においてはただの一般人。対してジェイドはマルクトの大佐という軍属の人間で、まがりなりにもこの和平を結ぶための代表として動いている。端から見て身分の差は相当に開いている。それもジェイドが訴えれば身分だけで見れば十分勝てる程にだ。

だがここでデスマスクは非礼を詫びるためという妥協点を提供したと共に、本来バックではないはずのファブレをさも自分の後ろにいるよう引き合いに出した。これではジェイドは何を言うにも言えない・・・パッと見れば情けをかけられていて、その情けを振り払ってしまえば任務が達成出来なくなる事態になり得るために。

・・・八方塞がりと、ジェイドの心境を説明するならこの一言だろう。だがそれもジェイドが余計なことを考えたことが原因で、デスマスクはその余計なことを潰しただけなのだから。







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