聖闘士の躍動と決心

『だが今はその様なことはどうでもいい・・・答えてもらおうか、俺の質問に』
「・・・はっ!てめぇにそれを言ってなんにな・・・!」
‘カッ!ボコッ’
「っ・・・なっ・・・!?」
それで話を戻すカノンにアッシュは強く拒否を示そうとするが、いきなりカノンの光速拳が自分の顔の横をかすめ背後の壁が大きく凹んだことに音を聞いて振り返った事で絶句した。
『今の一撃・・・当てようと思えば当てれたが、あえて外した。次はない・・・さぁ、お前は何のために神託の盾に入った?』
「・・・っ・・・!」
次はない。そうあからさまに告げながら拳を顔の前に上げるカノンに、アッシュは明らかに顔色を青く変え虚勢とわかる強がりの表情を見せる。
「・・・チッ。何の為もくそもねぇ、俺は俺の為に神託の盾に入ったんだよ!」
『・・・それはどういう事だ?ヴァンに忠誠を誓ってか、ローレライ教団に誓ってか?』
「今言った通り、俺自身の為だ!ヴァンの為なんかじゃねぇし、ましてやこの俺がローレライ教団の為になんざ忠誠を誓うわけねぇよ!」
『・・・っ』
それで自分の為だと強く言い切ったアッシュにカノンは正確にその真意を探ろうと問い掛けるが、言葉通りだと全くためらうことなく勢いそのままに返してきた事でそっと拳を握りこむ。
「さぁ質問には答えてやったんだ。今度はこっちの質問に答えてもらうぞ・・・」
『・・・お前とこれ以上この場で問答する気はない。俺はもう戻らせてもらう』
「なっ!?なんだ、あの穴は・・・!?」
アッシュはその姿に何も気付いた様子もなく息巻いて口を開くが、カノンが帰ると言い出し両手を上に上げ異次元空間の穴を作ったことに勢いを削がれて愕然とその穴を見る。
『・・・今日はこのまま引いてやる。だがいずれまた俺はお前の元に来よう・・・さらばだ』
「待て!・・・消えた・・・」
そして再度現れると宣告を残してカノンは異次元の穴の中へと浮かび上がって入り、アッシュは呼び止めようとしたものの穴が閉じて消えたことで唖然と虚空を見つめる。
「・・・アッシュ、無事か!?」
「リグレット・・・」
「なっ、これは!?・・・一体何が起きたというのだ・・・近くにあったはずのこの部屋にすら辿り着けずに、一本道をずっと行ってるような感覚に晒されていたと思ったら・・・」
「・・・っ・・・!」
そこにようやくリグレットが駆け付けて来たがこの部屋の内情に併せて近くの部屋なのに辿り着けなかったと愕然として漏らす様子に、アッシュは後に続く言葉など耳に入らずたまらず冷や汗を浮かべた。カノンの言ったことは本当だと、否応なしに理解した事で・・・















「・・・ふぅ」
「・・・お、カノン。終わったか?」
「あぁ・・・」
「・・・浮かねー顔だな、随分と」
・・・所は変わりフーブラス河のほとりにて、焚き火を囲むカノン達。
そんな中で一人目を瞑って座っていたカノンは疲れた声と共に目を開け、その様子にデスマスクは眉を寄せる。
「・・・とりあえずアッシュと会った時の事を言おう。話はそれからだ」
その姿に穏やかに寝ているルークを一度見てからカノンは静かに話を始める。先程のやり取りの事を(ちなみにティアはデスマスクの後ろに放置されて気絶している)・・・









「・・・という訳だ」
「・・・それはまた、なんつーか・・・」
・・・それでカノンが話終わった訳だが、デスマスクも呆れ顔で言葉を漏らす以外に出来なかった。
「・・・いくら俺でも見知らない奴が現れたからって、いきなり屑なんて言わねぇぞ。本当に元貴族なのか、アッシュ・・・?」
「・・・それに不審者とは言えいきなり斬りかかってこようとした、と言うのもどうにもな・・・あの様子ではもうアッシュは『ルーク』であることを拒否しているようにしか思えなかったが、あの様子だからこそ神託の盾にいるのも訳があってと言えるだろうな。何せ神託の盾としての体面を一切気にすることなく忠誠はないと言い切ったのだ。それでも『アッシュ』として神託の盾にいるのはそれだけの理由はあるのだろう」
「・・・ま、その理由も大方想像はつくけどな。ヴァンって昔から『ルーク』の顔を知ってる奴がいて、アッシュは忠誠を誓った訳じゃないって言い切ったんだ・・・いい結果が詠まれない預言の中身でもヴァンに突きつけられて、生きるために神託の盾に身を投じたって所だろ。で、やたら柄が悪い理由ってのも血に塗れる事のない貴族って立場から汚れ仕事の兵士に格下げになった不満もあんだろ。例え命惜しさにキムラスカを抜け出して貴族じゃなくなるのを理解したにしてもな」
「おそらくな・・・」
それでアッシュの行動の真意を探ろうとする二人だが、デスマスクもカノンも既に感じていた。命惜しさにキムラスカから亡命したのだと。








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