聖闘士の躍動と決心

・・・そして時間はまた更に進み、場所も変わる。その場とは・・・夜になっても交代で神託の盾が動かし、その巨体を忙しなく動かすタルタロスだった。






「・・・ん?何だ、あれ?何か光っているが・・・」
・・・始まりは甲板で見張りをしていた一人の神託の盾の兵士だった。
その兵士は目の前に何か自分の方に近づいてくる光を帯びた物を見て、何事かと漏らす。
「っ・・・なんだ、貴様は!」
だがその光を帯びた物の姿を近くに来て確認した瞬間、神託の盾の兵士は息を呑みたまらず大声を上げた・・・何故ならその姿は全身黄金に輝く鎧を着た人物で、両側に人の顔が用いられた奇妙なヘッドギアを被っていて顔の部分は見えてるにも関わらずその顔の部分が暗くなって見えないという不審さに満ちた物であったのだから。
『・・・とりあえず命までは取りはせん。寝てもらうか』
‘カッ’
「うっ・・・」
そんな黄金の鎧を着た者はかろうじて口と分かる部分を動かし指先を兵士に向けると、その指先から出た光を受け兵士はバタンと倒れこむ。
『さて・・・アッシュとやらは船室の方か』
そんな光景を見て黄金の鎧を着た者はカノンの声色で気配を察知して呟き、悠然と歩き出す。アッシュのいると思われる船室の方へ・・・



・・・さて、この黄金鎧の正体は誰かと言えばずばりカノンである。そしてこの黄金鎧は双子座の黄金聖衣であるが、その中にはカノンの実体はない。種明かしをすればそれは黄金聖衣に装着者の意志を小宇宙を介して仮初めの肉体を作って憑依させた、双子座の黄金聖闘士特有の技である。

本来なら双児宮を守る際に主がその場にいない時の双児宮を守るために双子座の迷宮を作る時と共に使う技法であるが、何故直接カノン自身が来ないのかと言えばルークがいるからだ。

ルークは基本的に今いる場がマルクトな為、信頼が出来る人間はそれこそカノン達以外にいない。そんな状況ではルークと下手に分かれては不安にさせかねないため、カノンもデスマスクも場を離れる訳にはいかないのだ。変に時間をかけてしまうと、言い訳が出来ない為に。

・・・故にカノンは慎重を期して夜を待った上でアテナよりの命でサガより借り受けた双子座の黄金聖衣を持って、カミュ達の情報を受け神託の盾の乗るタルタロスを急襲したのだ。この技法を使えるのはカノン以外にいないため(ちなみにデスマスク達も黄金聖衣は呼べばその場に来るよう、異次元空間の中に置いてある)・・・






『・・・ここだな』
・・・そしてそんなアッシュが目的のカノンは目的地である部屋の前に辿り着いた。道の途中にいた神託の盾を一瞬で全て倒して眠らせる形で。
‘ゴガシャッ!’
「な、なんだ!?」
『・・・お前が鮮血のアッシュだな』
「て、てめぇ・・・何者だ!?」
それでカノンは扉を開けるのではなく文字通り殴り飛ばして、室内に入った。その光景にベッドに腰掛け起きていたらしいアッシュは目を丸くして立ち上がるが、カノンからの声を受け動揺しながらも剣を抜き殺気を放ってカノンを鋭く見据える。
『・・・お前に一つ聞こう。お前は何をするために神託の盾に入った?自分の為か?ローレライ教団に忠誠を誓ってか?それともヴァンに従う為か?』
「・・・何のために、だと?・・・ハッ、笑わせやがる!イチイチくだらねぇ質問してんじゃねぇよ、屑が!」
そんな殺気などどこ吹く風と神妙な口調でカノンはアッシュに問い掛ける、その真意を。だが異様な登場の仕方からそう言われて拍子抜けしたと言わんばかりに馬鹿にした嘲笑と声を向け、アッシュは剣を振りかぶりカノンに斬りかかる。
‘パキィンッ!’
「なっ・・・!?」
だがその剣はカノンの拳から放たれた光速拳により根本から一瞬で折られ、アッシュはあまりの光景に驚きに目を見開く以外に出来なかった。
『・・・さぁ、もう一度聞こう。お前は何のために神託の盾に入った?』
「っ・・・何故だ、何故リグレット達は来ねぇ!?あれだけでけぇ音が出たってのに・・・!」
『フフフ・・・今頃奴らなら迷宮をさ迷っている頃だ』
「んだと・・・!?」
それで再度問い掛けを向けるカノンだが、アッシュは持っていた唯一の武器が無くなったことで助けを期待するかのように他の六神将への八つ当たりの声を上げる。だがその理由をカノンから聞き、信じられないとアッシュは疑わしげに強い視線を向ける。



・・・別にアッシュに信じてもらうつもりで言った訳ではないカノンにとって、信じる信じないはどうでもよかった。双子座の迷宮を作る要領でタルタロス全体を迷宮化し、この部屋に来るだろう他者の介入を阻んでいるという事実は・・・今頃六神将を含めて神託の盾は一本道のはずの通路をグルグルと回っていることだろう。











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