「・・・はっ！？こ、ここは・・・私達の部屋・・・？」
「・・・わ、私達は幻を見ていたというの・・・？」
・・・だがその瞬間パッと目の前の光景が自分達の部屋、それも一輝を眼前に控えた物だという事に気付いた二人は呆然と辺りを見渡す。
「・・・確かにあれは幻だ。だがあれは全て現実だ。アニスの心の内を現した・・・な」
「え・・・アニスの心の内を・・・？」
そんな二人に厳しい目付きを向けながら一輝は告げる。あれはアニスの心の内だと。
「アニスは嘆いていた・・・何故両親は自分の苦しみが分からぬのか、何故こんなことをしなければならないのかとな」
「・・・知らなかった・・・アニスがあんな目にあっていたなど・・・お金を貸してくれる人はあんな怖い顔はしなかったというのに・・・」
「・・・今まで何をしていた、貴様ら？」
「「えっ・・・っ！？」」
その今まで何も知らなかったという二人に一輝はアニスの心中を告げるが、ようやく鳳凰幻魔拳により真実を知った今でもまだ信じられないといった様子で父親は呟く。しかしその声に一輝は目と声を静かに怒りに染め上げ、何をと理解出来ない二人はその姿に恐れおののく。
「人を幸せにするなどというのは自らが満ち足りていなければ出来ぬ所業であり、親しい者を不幸にする事では断じてない！ましてや娘の不幸に目を向けず、他者の欲望を満たすための策略を策略かなど考えず金を放り投げるように差し出すなど愚の骨頂！今まで貴様らが人の幸せの為と思っていた行動は、ただの自己満足に過ぎん！」
「「！・・・自己、満足・・・」」
その二人に一輝は激昂しながら激しく並べ立てる、いかに今まで取ってきた行動が自己満足であったかということを。その言葉に二人とも愕然と衝撃を受けたように呟きたたらを踏むが、まだ押すべきと考えたのか一輝の言葉は静かに続けられる。
「・・・今はまだいいかもしれん。百歩譲って殴られるだけなら譜術に薬を使えば傷は塞げるだろうからな。だがこれからも大丈夫だなどと保証は出来んぞ。それこそ貴様らが自己満足で借金してまで放り投げるように渡す金の額が更にはねあがり、その上に歳を重ねればアニスの体を借金を返す期間の延期の為に求めるものまで現れかねん」
「なっ！？そ、そんなことするなんて・・・！」
「貴様らは聞いたことがないのか？女が不当に襲われ辱しめられたといった者の話を・・・今のアニスは１３だ。１６にもなれば子供も産める体になる上に結婚も出来る歳になる。いや、下手をすれば未熟なその体を狙い手を伸ばそうとする輩が今もいないとは限らん・・・もし貴様らはアニスが辱しめられ心を傷つけられたその時、どういった償いをするというのだ。貴様らが原因で傷ついた実の娘のその心に・・・」
「「・・・っ！」」



・・・一輝は今までの波乱に満ちた人生経験の分、人の欲望がいかほどの物かというのを重々に理解している。それは不死鳥の聖衣を手にするだけの実力を身に付け、人の精神を覗き見れる事になってから尚更に拍車をかけていた。尚それでもアテナの聖闘士として人を守る側として戦うことを選ぶ辺り、一輝も人は汚いだけではないと感じているからこそである。

そして一輝の言っていることの中身はかなりの現実性に満ちていた。何せ今アニスは１３で、数年もすれば余程の事情がない限りはその身体も成長して少女から女性として大幅に変わるだろう。そうなれば良からぬ目でアニスを見る者が出てもおかしくはない。いや、下手をすれば年端もいかず肉体も成長してない子供を性の対象と出来る者達に最悪の形で見初められていてもおかしくはなかった。その辺りはアニスの運がまだあったと言えようが、それでもこれ以降は成長に伴うに連れてどんどんと危険に満ちることになるのは間違いはなかった。



・・・一輝から現実に起こりうる最悪の可能性を聞いた両親は絶句し、二人ともに青い顔でうなだれる。流石に今まで現実に目を向けていなかった二人でも、アニスに襲いかかるやもしれないあまりにも生々しい可能性を聞かされては考えざるを得なかったのだろう。
「・・・だから俺はキムラスカの者が来たら娘を助ける為と思い、付いていけと言ったのだ」
「・・・え？」
そんな光景を見かねて最初に言ったことを切り出す一輝に、両親は恐る恐る顔を上げる。







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