不死鳥の盲目への怒り

「どうも、ダアトでは見かけない顔ですがどのようなご用でしょうか?」
そして部屋に入って一輝を笑顔で出迎えた中年の男性。その姿に一輝の表情に更に険が増す。
「・・・まずは単刀直入に言おう。そう遠くない内にキムラスカよりお前達夫婦に迎えが来る、その迎えが来たなら素直にそいつらに付いていけ。娘を助けたいと思うならな」
「え?アニスを助ける?何を言うのですか、アニスはイオン様の元でつつがなく働かれています。そのアニスを助けるとは、一体何を言っているのでしょうか?」
「・・・っ」
(・・・カミュの言っていた通り、事前にアニスに会っておいてよかった。成程、確かにコイツらに言葉など通じんな)
そのままに一輝は簡潔にアニスを助けたいならキムラスカよりの迎えに付いていけと言うが、キョトンとした様子で心底から何を言っているのかと父親が言ったことで苛立たしげに表情を変えながらも、内心で一輝は数日前の事を思い出していた。



・・・一輝はオールドラントに来た後、カミュからの勧めでアニスを見てからダアトに行くように言われた。何故かと言えばカミュからタトリン夫妻の厄介さの一端をアニスから受け取ったと言われた為だ。戦いの実力的な意味ではなくその思考の在り方が。

故にカノン達の元に来た時に一輝はアニスの心の中からタトリン夫妻の記憶を読み取ろうと旅人を装って通り過ぎざまに観察したのだが、そこでアニスの内心にある記憶を見た一輝は怒りを覚えていた。



(子は親を選べんと言うが、子の気持ちを全く考えん親など害悪にしかならん・・・これならまだ城戸光政の方が自身の行いを理解している分、マシというもの・・・!)
・・・今ではアテナを守るために手を打つという意味合いがあったと知っているため、昔ほどは自身の親である城戸光政に対しての怒りは一輝にはない。だがこの親二人は自身が何をもたらすのかを全く考えず、アニスを苦しめた。その事は一輝の中で同情を覚えると同時に、激しい怒りを生んでいた。
「・・・どうやら言葉では一切分からんようだな。ならば少しでも娘の痛みを思いしれ、その目でな・・・!」



「鳳凰幻魔拳!」



「「・・・え?」」
・・・だからこそ一輝は遠慮せず怒りと共に本家本元の鳳凰幻魔拳を二人に放った、ちゃんと狙った効果を出せる失敗の有り得ない一撃を。



しかし自分達に唐突に向けられた指から痛みなどない衝撃がポンと額に当たったことから、タトリン夫妻は二人共にポカンとした様子を浮かべる。
「・・・えっ、なんでいきなり外に・・・?」
「私達、確か部屋にいたはずなのに・・・」
・・・だが鳳凰幻魔拳の効果は即座に現れた。
鳳凰幻魔拳を受け今いた場から唐突に場が変わったことに、二人は共に呆然とする。
「・・・確かここは大聖堂の外れだったはずだけど・・・」
「・・・あっ、アニスちゃん!」
「えっ、アニス・・・でもあの人は誰なんだろう・・・?」
それで辺りを見渡しその場の心当たりに検討をつける父親に母親が別の場所を見てアニスを見つけるが、隣にいたいかにもガラの悪い男に父親は首を傾げる。



‘ゴッ’



「「・・・えっ?」」
・・・だがそんなある意味ではのんびりした反応の両者を停止させる光景が目に飛び込んだ・・・その男がアニスの顔面を殴る姿という光景が。
『へっ、金が入ったって言うからどれ程のもんかと思えば・・・全然足りねぇな、このくらいじゃ』
『・・・っ・・・』
『ん?何だよ、悔しかったら全額耳揃えて借金を返せってんだよ・・・ま、あの馬鹿親どもじゃまず無理だろうし借金をただ増やすだけだろうがな・・・同情だけはしてやるよ。あんな馬鹿親の尻拭いしなきゃならない同情だけな・・・ギャハハハ・・・!』
『・・・っ!』
それでもう片方の手に握られていた金を見てニヤニヤ笑いながら見下ろす男の姿にアニスは睨みつけるような視線を向けるが、全く意に介さずむしろ両親を侮辱し高笑いしながら男は去っていき、アニスは悔しそうにうつむいた。
「こ、これは・・・」
『ック・・・ヒクッ・・・なんで・・・?』
「!?アニスちゃん・・・!?」
呆然と父親が言葉を漏らす中、アニスから聞こえて来た悲痛な声に二人は急いでその元に駆けつける。



『・・・なんでパパ達はアニスを見殺すの?』



「「!!うわあぁぁぁっ(きゃあぁぁぁっ)!!?」」
・・・だがうつむいていたアニスが顔を上げた瞬間、二人は驚きと恐怖に悲鳴を上げた。何故ならアニスが殴られた顔の後がいきなり腐ったように赤黒く変色し、その肉片が崩れ落ちた姿を見たのだから・・・







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