不死鳥の盲目への怒り

・・・これはカノン達がルークを護衛し、バチカルに戻るまでの話である・・・









「・・・ここがダアトか・・・」
・・・預言を尊ぶ者にとって正しく聖域と呼ぶべき土地のダアトの街の入口にて、一人布にくるまれたパンドラボックスを背負った男が元々より無愛想な顔の眉間を更に深くさせていた。
「・・・いい気分のせん場所だ。さっさとタトリン夫妻とやらと接触してこの場所を離れるか」
・・・その街並みに行き交う人々の姿の光景だけを見れば、確かに平和そのものと言えるだろう。だがこの街並みを見る男・・・一輝の目から見れば不快にしか見えなかった。これが預言によりもたらされた物と知っているが為に。
自身に託された役目。それをさっさと果たさんと不機嫌な表情を変えず一人呟き一輝はダアトの街中へと歩いていく・・・












・・・何故一輝が今ダアトにいるのか。その答えは言ってしまえばカノンよりの依頼で、アテナよりの命令であるからである。

カノン達が正式に聖闘士としてオールドラントの災禍を避けることをアテナより命じられた折、アテナは更なる援軍をカノン達に送ると言ってきた。最初はそれを固辞しようとしたカノンだったが、瞬時に思い直して意志が強いアテナを納得させるためには妥協点を作って協力しようにも出来ない程度に留めさせようと画策した。そしてその画策が協力してくれるなら誰でもなく最優先で一輝を寄越してほしい、と言うものだった。

これは一輝の居場所が通常は誰も知り得ていないことに起因している上で、その性格から余程の事がない限り姿を見せない上に協力もすることがない・・・そう言った一輝の事があるからこそカノンは一輝の協力を所望した。まず協力してくれるとは思えないどころかその姿が見つかるかも分からなかったために。

・・・だがそこでもアテナはカノンの目論見を容易く打ち破った。来ても相当に時間がかかった上での事と思われた一輝だったが、そのやり取りのすぐ後に一輝はオールドラントに来たのだ。

これはカノンは知るよしもない事だが、地球にも冥界にもいないカノンを探すために聖闘士達は各地を探していたのだ。そしてそれはカノンを探していた瞬達が偶然一輝を見つけたことから一輝の耳にも届くこととなり、独自にながらも一応は協力してくれた。その過程の上でカノンが見つかった後に瞬達がその報告をしたのだが、珍しく一輝はすぐにはその場から姿を消さなかったのだ。それでその一輝にアテナが瞬を介してすぐに接触を試みた結果、一応協力はするとすぐに返答を返してオールドラントに来た・・・という訳である。



・・・そんなカノンの目論見を盛大に外してくれた一輝だが、そもそも一輝に非はない。むしろ巻き込んでしまった分、カノンは悪いとさえ思っている。故に謝りを入れた後で簡単な役割を頼んだ後で早く帰ってもらおうと考え、カノンはダアトのタトリン夫妻への接触を依頼したのである。それが終わったら地球に戻ってもいいと、そう告げた上で。



「・・・ここか」
・・・普段戦い以外に一輝を知る者があまりいないことから意外に思われるかもしれないが、そもそもの一輝は礼儀正しく男気に溢れた男なのだ。デスクイーン島に行って大分変わりはしたが・・・それでも戦いにならともかく敵でもない人間相手に一々威圧したり、無意味に手を上げる人間ではない。
ダアトの中を探すにあたりぶっきらぼうながらもちゃんと人に話を聞いてタトリン夫妻の居場所を聞いた一輝は、教会の中のタトリン夫妻の住まう部屋の前に来ていた。
‘コンコン’
「・・・すまんが、タトリン夫妻はいるか?」
「はいはい、なんでしょうか?」
‘ガチャ’
そしてノックと共に控え目に声を出す一輝に、すぐに女性の声がドアの向こうから聞こえてきてそのドアを開ける。
「あら、どちら様でしょうか?」
「っ・・・少し急用で話をしに来たのだが、旦那はいるか?」
「えぇ中に。さぁさどうぞ、中にお入りください」
「・・・」
そこから現れたのは人の良さそうな笑みを浮かべた中年の女性。だがそんな女性を見て一瞬表情をしかめかける一輝だったがなんとか持ち直して無愛想に旦那の存在を聞いた上で話があると言うと、その女性はなんら気にすることなく入室を勧めてきた。その事に一輝の表情は不機嫌さを増して固くなっていたが、一応その勧めに従い入室した。








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