聖闘士と冥府の誘い

『もうここまで堕ちてしまったお前を見ているだけなど出来ん・・・幸いにもここは我らの力も及ぶ生死の境だ。これ以上お前が醜態を晒す前に我らと来てもらうぞ・・・死後の世界に』
「ち、父上・・・」
『本当は私もこんなことはしたくはなかったわ、ガイラルディア・・・でも今貴方を見逃す訳にはいかないわ。これ以上あの子を困らせない為にも・・・』
「姉、上・・・ヒッ・・・た、助けてください・・・俺は今、死にたくない・・・だから、命だけは・・・!」
そしてジリジリ自身に近付いてくる伯爵に少しずつ後退していたが、更に姉の存在も加わり同じように近付いてくる事にガイは途端に腰を抜かして地面を這うように背中を向け逃げ出した。
「はっ、随分と情けねー姿だな。ま、俺の知ったこっちゃねーけど・・・あんたはいいのか、二人に加わらないで?」
『はい、言いたいことは二人が言ってくれましたし・・・カノンに伝えていただきたいことがあったので、私はあえて何もせずここに残りました』
「・・・へぇ」
そんな光景を見てデスマスクが鼻で一笑し一人何もしていなかった母と呼ばれた人物を見れば、決意のこもった瞳を浮かべ自身を見るその姿に自然とデスマスクも表情を引き締めていた。話を真剣に聞くために。















「・・・ん?」
・・・少し時間は進んで場所は戻り野宿の場。
ルークの元に戻り辺りを警戒していたカノンは、この場の近くに特徴的な小宇宙を感じて立ち上がる。そしてその小宇宙の持ち主は虚空に開いた穴から姿を現した。
「・・・よっと」
「・・・戻ったか、デスマスク」
「おう」
その正体はデスマスク。だが小宇宙からそう来ると分かっていたカノンは冷静に出迎える。
「一体何をしていた?ガイを黄泉比良坂にまで連れていって・・・」
「まぁ待て、事情は初めから説明してやっから落ち着け」
「あぁ、わかった」
そしてすぐさま事情を聞こうとするカノンだが、デスマスクからたしなめられすぐに黙り話を聞く体勢に入る。












「・・・ガイがガルディオスの生き残り・・・ホドで全て一族は滅びたと聞いたが・・・」
「全部綺麗さっぱり言ってくれたぜ。事細かにそうなるに至った経緯をな」
「・・・その上ペールもヴァンもガルディオス関係者としての生き残りか・・・屋敷の中でやけに立場を越え懇意にしていたのはかつての主従関係があったからという事とは・・・」
・・・そしてデスマスクから話を聞き終わり、カノンは真剣な表情で考え込む。
「どうする?今黄泉比良坂に戻ればガイをこっちに引き戻せるかもしれないぞ。もう冥界に落とされてたなら取り返しはつかないけどな」
「・・・いや、いい。俺の今の仕事はルークを守ることだ。ガイを今現世に戻したなら、どのような行動を取るか全く想像が出来ん。最悪の場合殺す事も辞さない事態になり得る上に、復讐者をこれ以上隣に置いておく訳にもいかん・・・そうなるよりはもうこのまま放っておく方が後々の為になるだろうから、何もしなくていい」
「あぁ、わかった」
そこにガイを助けるかとの問い掛けをするデスマスクだが、カノンが迷いなく拒否を示したことですんなりと頷いた。



・・・死んだ家族の本音、それが自身の考えに則していない事を聞いたガイの心中がいかほどの物であるかは想像し難いものがある。更にその死んだ家族に詰め寄られるという通常では有り得ない事態に陥ったのだ。その精神はより追い詰められていることは考えられる。

そんな状態でもし今現世に戻ったなら、どういった行動に出るか・・・全く想像が出来ない。その心中を察する事の難しさもあるが、何かきっかけがあれば衝動的にルーク及びファブレの人間に被害を及ぼしかねない。それに元々復讐をするためにガイはファブレに入り込んでいたのだ。信用などますます出来るはずもない。

・・・そう考えればここで人知れずそっとその生を終わらせてもらった方がいいと、そんな考えをカノンが持つのは当然の事であった。例え死んだ家族の手で、哀れに冥界に落とされることになろうともと・・・








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