兄弟として、仲間として向かい合う

「カノン・・・」
「どうした、サガ?」
それで教皇宮を出たカノンだが、背後からのサガの声に何でもないように振り返る。そこには先程までと変わらぬサガの顔があった。
「・・・ハーデスとの戦いの時、いやそれ以上に変わったのだな・・・カノン・・・ムウ達とから話には聞いていたが・・・」
「・・・フ、変わったか。そうかもな、事実として俺は変わったのかもしれん・・・」
「やはり、その・・・ルークの存在があったからか?」
「・・・あぁ、そうだな。俺はルークの為になりたいと思っていたが、俺自身もルークに助けられていたのだろう・・・アテナには命と心を救われたが、ルークには人として生きていると実感出来るだけの物をもらった・・・ルーク自身は実感はしてはいないだろうがな」
「っ・・・」
・・・兄として、サガが初めて見るかもしれないカノンの満ち足りた笑顔がそこにあった。
自身から聞いたことにカノンがルークに対する答えを返したその姿に、サガは動揺を露にする。
「・・・フッ、なんだその顔は。大方俺らしくないとか思っているのだろう」
「い、いや・・・そんなことはないが・・・」
「・・・まぁ気にすることはない。一応聖闘士としてアテナに認められたとは言え、有事で呼ばれることがなければ聖域にはしばらく長期滞在することはないだろう。だから俺達の事でサガが心配するな」
「う、むぅ・・・」
そんな姿に余裕を持った笑みを浮かべるカノンに、終始視線をさ迷わせるサガ・・・肉体年齢が変わったために肉体だけならカノンが年下になったのだが、精神年齢から言えば経験の差もあって完全に両者の関係が逆転した状況であった。
「・・・では俺は行くぞ。巨蟹宮でルークが待っているのでな」
「あ、あぁ・・・」
カノンはそこでもう巨蟹宮に戻ると言い、サガはそれ以上は何も言えずにただ見送る。



・・・ちなみに何故巨蟹宮にルークがいるのかと言えば、これは単純にカノン達が戻ってきた時にサガが教皇宮にいて双児宮にいなかったからどこに泊まるかとなった結果である。

ただサガは双児宮に泊まってもいいとはテレパシーで話した時に言ってはいたが、その時の声がかなり動揺に震えていた為に満場一致で双児宮はなしとなったのである。カノンと会う準備は出来ているとアイオロス達には話していたサガだが、意外とメンタルが弱い事を考えると実際に顔を合わせるだけならともかく暮らすことを考えるにはまだ少し時間が必要だろうとなったために。

その為にルークを長く歩かせるような十二宮の上の方にある人馬宮や宝瓶宮に行くよりは、巨蟹宮の方がいいだろうとカノンとルークはデスマスクの所に厄介になったのだ。その上で今ルークも連れて教皇宮まで行けばサガがどうなるか分からない、ということでアテナとシオンには本来なら連れていくのが望ましかった筈のルークは連れていかないと伝えた上でカノンは教皇宮に来たのである。

ちなみに聖域にいる間はデスマスクの厄介になろうとカノンは先程のやり取りで決めていた。自分はともかく今言ったような事もあってサガは心静かに落ち着いて相手と向き合えるような状態では到底ない事を感じて。



「カノン・・・」
「・・・弟の想像以上の変わりように動揺したか、サガ?」
「シオン様・・・それにアテナも・・・」
カノンが下に戻っていきいなくなった後を複雑そうに見つめるサガの元に、シオンとアテナが笑顔を見せながら現れる。
「だが私から見て、あれはよい変わりようだと思うがな。いい男の目になっていた」
「えぇ、私もそう思います」
「・・・ですが、あそこまで変わっているとは思っていませんでした・・・」
「ならば聞くが、あのカノンの事を好ましくないと思ったか?」
「・・・・・・いえ、それはありません」
そのまま二人ともにカノンを誉める言葉にサガは思ったことを素直に口にするが、シオンが嫌なのかと聞けば少し間を空けて違うと首を横に振る。











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