聖闘士の手より離れた世界

・・・もしナタリアと行為に及び、子供が出来たとなればアッシュはそれこそ張り切り決意を新たにする事だろう。ナタリアとその子供の分も含め、自分が頑張ろうと。だがその子供の存在がアッシュとナタリアの二人を引き剥がす事になるのだ・・・その状況からナタリアを政務に関わらせるのは望ましい事ではないとなり。

そしてアッシュ自身も必要以上にナタリアに負担をかけるまいと彼女に頼ることはしないだろう、男としての意地を胸に自分で動こうと決めて・・・まぁこの部分だけを聞けば美談と言えなくもない。が、アッシュにそんな事が出来る実力もそうだが結果を結果として受け入れた上で大人しく出来る程の自制心があるとは到底思えない。

カノンもそうだがインゴベルト達はそんなアッシュは時が経つにつれ、次第にボロが出てくるだろうと確信していた。うまくいかない現状に腹を立て、先の集まりで言われたような望ましくないことも感情で爆発して何もかも忘れたように振る舞うだろうと・・・そしてそんな状況が一度や二度なら流石にまだ見逃す事も出来ない訳ではないが、それが続けばいよいよアッシュから政務に携わる権限を奪うというわけだ。表向きは活動はまだまだしていると見せながらも、その実はインゴベルトや貴族達に行動をコントロールされる形で。そしてそのコントロールの中にはアッシュが受けた処置の事はナタリアには伝えないことや、夫婦の営みについて自発的に行うよう推奨することも含める予定だ。

・・・尚、インゴベルト達はナタリアのことも含めて本心からそうなってほしいわけではない。次代に繋げる王族を信じたいという気持ちもあるが、それ以上に親子という血縁関係があるために。ただアッシュの性格に考え方では、苛烈な上に自分勝手が過ぎてナタリア以外はまず人がついてこないと十二分にこの三年で感じてしまったのだ。だからこそ最終的にアッシュを止めるなら徹底的に止めるべきと考え、カノンの案に従うことにしたというわけだ。どうしても心変わりが望めないならいっそ逃げ出したいと思うくらいの気持ちにする形でキムラスカに縛り付けようと、断腸の思いでアッシュ達に接しようと・・・









「・・・どちらにせよ、だ。カノン、そなたにはまた世話になった。このような形でになるとは思っていなかったがな」
「いえ・・・ですがこれで今度こそ今生の別れとなるでしょう。元々この世界を再び訪れたのも、三年前からどう変わっているのかにどうなるかを確認するため・・・ですがそれも果たし、キムラスカの今後がある程度確信が出来た今となってはもう私達がこちらに来るような心残りもございません」
「そうか・・・そう言ってくれるのであれば少しは我々にも救いはあるな・・・」
そしてインゴベルトは改まってカノンに礼を言うのだが、これで最低限大丈夫だと思うからこそもう現れるつもりはないとの返答に寂しげな笑みを浮かべる。アッシュ達のこれからとカノンに今度こそ二度と会えなくなる事、それらの考えが入り交じった為に。
「・・・では私はそろそろ戻ります。これで全て終わりましたので、元の場所に戻らせていただきます」
「そうか・・・改めて済まなかったな、カノン。お前のおかげで色々と助かった」
「いえ・・・これで私は失礼します、では・・・」
そんなインゴベルトを見ていよいよとカノンは帰ると口にし、公爵の礼の言葉の後に異次元空間を自身の背の方に開いて頭を下げた後にその中に入っていく。その後に異次元空間はすぐに閉じてしまい、元の何もない空間へと部屋は戻ってしまった。初めからカノンはいなかった、そう言わんばかりに・・・









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