聖闘士の手より離れた世界

・・・そして言うべき事は言い終わったということで、インゴベルトと公爵は少し時間を取った後に貴族達にアッシュ達を場から退出させた。



「・・・ご苦労様でした、お二方」
「・・・うむ、一先ずこれで今やることはやり終わったぞ」
そして二人の後ろの部屋の隅から姿を現したカノンは声をかけ、インゴベルトは平然と振り向きつつ答える。
「あそこまで言えばあの二人も流石に自重せざるを得ないだろう。後はナタリア様に出来る限り早くアッシュと子を成すようにと、アッシュには内密に接触して説得することが必要との事だが・・・そこから先は我らがやることだ。お前がいなくなった後にな」
「・・・今更な上にそれを提案した私が言うのもなんですが、改めてよろしいのですか?夫婦となるべき二人の間で自然に任せるようなことにしなくて」
「・・・確かにわしらもどうするべきかとはそなたから話を聞いた後に改めて話をした。だがやはりあの二人の後の事を考えればそうした方がいいとの結論に達した」
そして公爵が後の対応のナタリアに早く子作りをさせるようにするとの案はしっかりすると言い切るが、発案者のカノンがそれでいいのかと確認を向けるとインゴベルトは覚悟済みとの返答を返す。
「あの二人が互いに想いあっているのは確かな事だ・・・だが今の年齢にまでなっても、あの二人がそういう行動をしていたのではと見られる後があったとの報告は無かったそうだ。こう言った言い方はあまり望ましい物ではないが、婚前交渉は確かに人聞きも悪いし露見するのは感心出来ることではない・・・が、それ以上に年頃の男女が人目の触れない状況に長時間共にいると言うのに、今まで一度もそういった痕跡がないと言うのは別の意味で不安があるのだ。性的な事に興味がなければ子供が出来ないというのもあるが、それ以上に二人が子を成す事よりも政務の方に集中しようとする場合という不安がな」
「前者も確かに問題と言えるが、後者に関してはそれこそ問題以外の何物でもない。二人にやる気を出してもらう分には構わないと言いたいのだが、次代のキムラスカの王族の蒼い血が流れる子を産めるのはあの二人以外にいない・・・だがあの二人は立場的に追い詰められていると感じているのもあり、そんな自分達の評価を上げるためにもキムラスカを自分達の手でより良く導きたいとより張り切って空回る可能性がある。そこで子供を作れば共に政務に携わる事が出来ないと、子供を作れるギリギリの年齢まで先伸ばしにする可能性がな・・・しかし我々としてはそんなことは望んでいないのだ。二人が必要以上にやる気を出してボロを出すこともそうだが、もしそれで子供が出来なかったなら責任をどうやって取るのかという話になるのでな」
「成程、そうですか・・・」
そこからインゴベルトに公爵と二人は各々の考えを続けて話すのだが、その中身があまりにも生々しいことに加え危機感に満ちた物であった為にカノンは余計な言葉を挟めずただ納得するしかなかった。



・・・人間の三大欲は食欲に睡眠欲、そして性欲が上げられる。と言っても大抵の生物に当てはまることではあるのだが、重要なのはそこではない。重要なのはアッシュとナタリアの二人が普通の人間なら当然持つような性欲からの行動を取ろうとしない可能性があるという点だ。

これは二人が小さい頃の高潔な約束を結んでそれを互いに忘れていなかったというのに加え、アッシュがヴァンに拐われ七年もの間で時が止まったかのように二人の関係が前進しなかったことにある。

二人としては美しい思い出の上で、高潔な約束を高潔に果たそうとでも考えている事だろう・・・だが子供のままの関係に考え方をしていては言い方はどうかとなるが、互いを性的な対象として見ることはまず難しいとしか言えない。その点で両者共に自分の伴侶は相手だけと思っている二人は想いあっている事には違いはないが、そこに相手を性的に見る目はないのだ。現にインゴベルト達が言ったように想いあう異性同士が長い時間共にいて、全くそういった事がなかった。

・・・恋愛において、性的な行動は絶対に必要な要素ではない。だが相手を魅力的・・・すなわち性的な目で見れるかは打算などといった考え抜きの恋愛をするなら、重要な要素なのは間違いないのだ。しかしアッシュとナタリアの二人は互いを魅力的で運命の相手と思いはしているだろうが、性的な行動をするには至っていない。これが二人が正式に結婚するまでそうしないという決めを作っているという可能性も無くはないが、もし単に性的な事への興味が子供のままで止まっていたらキムラスカの今後を考えれば一大事としか言えなかった。












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