聖闘士と冥府の誘い

「よう、大佐殿。あんたそれ本気で言ってるんだよな?」
「えぇ、でなければ言いませんよ」
許可が取れたことでデスマスクは意気揚々と悪どい笑みを持って本気かと問えば、当然だろうと言った様子でジェイドは返す。
「へぇ・・・んじゃこの交渉ってあんたからすりゃキムラスカへの侵略行為に過ぎねぇんだな。和平って名を借りた」
「侵略行為?」
だがすかさず返された侵略行為という言葉に、ジェイドの表情が訳が分からないと言った物に変わる。
「そうだろう?こちらにおわすルーク様は今は無位無冠の身分とは言え次代のキムラスカの王となられるお方だ。そのお方をぞんざいに扱うということはマルクトの和平に対する姿勢ってもんに疑問を産むには十分な代物だろ。いざとなれば力を使うことは辞さないって示してんだからな。それもキムラスカの王家に直接ってんじゃなく、ルーク様を使う事による脅しに使うって言ってるようなもんだ。誰がんなこと聞いて素直に協力したいなんて言うと思うよ?・・・あぁ違うな。大佐殿は協力じゃなくてキムラスカを含めて自身の意志で服従させてぇから、軟禁なんて言葉をルーク様に向けて使ったんだなそういや」
「っ!!」
「・・・っ!」
・・・だが次に放ったデスマスクの言葉はルークを含めた上で、ジェイドの張り付けた嘘の表情の仮面を一気に剥がし落とした。
乱暴であり丁寧な言葉をまるでジェイドとルークの二人に使い分けながら言い聞かせていたデスマスクだが、さりげに気遣うように視線をルークに向けながら喋っていたが、話の中身が中身なだけにルークは一瞬で表情を青くしてジェイドはその姿を見てまるで信じられない物を見るかのようにデスマスクを凝視した。



(・・・上手いな、デスマスク。ここでさもこの大佐がいかに信用出来ないかをルークに印象づけた上で、話の流れをこちらに持ってきたか。あそこまで言われれば自身で言ったこともあり、大佐も下手な事は言えんだろう)
そんな光景を見ながら傍らでカミュはその心理戦に有利な立場に立ったデスマスクに、称賛を内心で送っていた。
(おそらく大佐は力を持って軽く威圧をすればこちらになびくとでも思い軟禁と使ったのだろう。もし断ればそれこそ軟禁をしてさもこちらは何もする気はなかったが、ルーク様を安心させるためにあえて人を離したのだと・・・だが相手が悪かった。デスマスク相手に冷酷さを競う争いを持ちかけられるとなればそうそうこの男には勝てんからな)
その上でジェイドの理想の思惑を考えつつも、相手がデスマスクでは分が悪いとカミュは考える。



・・・カミュはこの世界で様々な知識を得るに辺り、目の前の人物が悪名高い『死霊使い』と呼ばれる人物であるとも知っていた。そしてその異名から噂される話も。

だがデスマスクと比べればいかに悪名が高かろうとも、いかな噂であろうとそれが霞むとカミュは感じていた。何せかつてのデスマスクは人を殺すことに躊躇いを持たないばかりか、自身の殺した無数の命の死仮面を巨蟹宮で眺めて平然と笑っていられた男だ。加えて言うなら悪知恵を働かせれば黄金随一である。

そんな男相手に残酷であり利己的な考えで対等以上に渡り合おうなど、そうそう出来るはずがない。現にデスマスクは味方であるはずのルークまでにも不安を与える形でジェイドを攻撃している、後でアフターケアをするにしてもだ。



(この場はデスマスクに任せても構わんか)
そんなデスマスクだからこそ後を任せんと、カミュは何も言わずにその光景を傍観の立場で見守ることに決めた。



「それにだ。いくら秘密で行動してるっつったって、あんたらはマルクトの皇帝陛下からの命を携わった上の公務でキムラスカに向かうんだろ。で、その秘密の命とは言えの公務の上でルーク様に和平の橋渡しを願い出たんだ・・・わかるか、大佐殿?ガキ同士の口約束じゃねーんだよ、あんたが今やってることは。キムラスカの王族であられるルーク様に公務を達成する為に協力を申し出るってのは、言ってみりゃこれもれっきとした公務の一環なんだぜ。大佐殿にだけじゃなく、ルーク様にとってもな」
「何・・・?」
話のペースが明らかにデスマスクに一気に持っていかれた中、右手を前に出しいかにも楽しそうに挑発をするポーズを取るデスマスクにジェイドは不穏な空気に呑まれているのか理解出来てないといった様子で訝しそうに表情を変える。










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