聖闘士の手より離れた世界

「その様子ならそなたらも少なからずは理解出来たであろう。貴族達がそれだけの不満を抱えていたと言うことを・・・無論、ルーク・・・そなたの事情がひとかたならぬ物であることは貴族の皆も承知はしている。しかしだからこそその甘えとも取れるような体たらくを二人が長々と見せていては、貴族の不満も溜まる一方・・・そうなれば貴族達から結婚についてはまだしも、王座を譲ることについては難色を示してくる可能性が高い」
「なっ・・・そんな権限を、何故貴族達が・・・!?」
「勘違いをするな、ルーク。彼らは確かに王族の臣下という形で我々に従っているが、だからといって唯々諾々と上の行動に意見を鵜呑みにするだけが仕事という訳ではない。時には我らが誤った時には諌め、意見を具申するのもまた貴族の役目なのだ。そしてわしもそうだが、クリムゾンもそなたらの行動に不安に加えて危機感を覚えた・・・このまま何もなく事が進んだなら、そなたら二人が王と女王の座に着いた時に貴族達の言葉を気にせず押し潰すような自分勝手な政治を行うのではないかとな」
「「!!」」
インゴベルトはその様子に大して気にした様子もなく話を続けるが、アッシュから貴族にそんな権利などあるはずもないとばかりの声が漏れてきた事に貴族達に加え、自分達も信じるには難しいと後の悪評に繋がる可能性に関しても付け加えて言い切り二人は衝撃に愕然とする。
「そして貴族達もまた、そう思い意見を具申してくることだろう。そうなればわしにクリムゾンもその気持ちが理解出来るため、素直に王座を譲る事は出来ないしわしらとしてもそうしたくはない」
「だ、だったらどうすればよろしいのですかお父様・・・!?」
「・・・今の話を聞いたなら少しは分かっただろう。お前達の自分勝手な行動がその不満を生んだと。だが今ならまだ軌道修正は効く・・・貴族達に向けての発表は数日後に予定していると言ったが、その間は互いに行き来などせずに公務に集中せよ。一応わしが注意をしてお前達が堪えたとなれば、貴族達も不安はあれども一応は納得するだろうからな」
「そう、ですか・・・なら仕方ありませんわね・・・」
更に意見が来たならいよいよ王座は物理的に遠くなると言うとナタリアはすがるように焦って聞いてきて、一応の対応の行動を述べれば残念そうながら仕方無いと呟く。察するにアッシュの元に行き来出来ない事とを天秤にかけた結果なのだろう。
「そういうことになる・・・ただ今のうちに言っておくが、話が済んだならまた同じようにしていいなどとは言っていない。むしろ事が済んでまたすぐに言うことを聞かないような態度を取れば、今まで以上に評価が落ちることになる・・・そうなればもうわしもクリムゾンも庇いだてが出来ぬ事態になることを忘れぬようにせよ、いいな?」
「っ!・・・はい、わかりました・・・」
そんな姿に釘を刺すよう今だけやればいいなどということはないと厳しく言うインゴベルトに、ナタリアはアッシュ共々下を向いて頷く以外に出来なかった。失敗は許されないしもう助けはないと深く刻み込まれた為に。
「・・・話は以上だ。後は元の場所に戻っても構わんが、くれぐれもこの数日の間は時間があるからと互いの行き来もそうだが下手に用事もなしにうろつくのも抑えるようにするように。その行動が貴族達にどのように見えるかわからんのでな」
「っ・・・はい、わかりました。では我々はこれで失礼します・・・」
そして話の終わりと共に最後の注意を添えるインゴベルトに、アッシュは不満を滲ませながらも頭を下げてナタリアと共に部屋から退出していく。



「・・・お疲れ様でした、陛下」
「ふぅ・・・あれでよかったか、カノン?」
「はい、それはもう」
・・・それで二人が部屋から出ていったのを確認してからカノンが部屋の陰から出てきて、インゴベルトは先程までの表情を崩し安心を滲ませる。








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