聖闘士の手より離れた世界

「・・・お前達がこの世界から消えてから六ヶ月程になるが・・・時間稼ぎにと二人を一緒にする事をカノンが打診しただろう。事実、その限界と見た時になって二人は爆発した。いい加減に子供でもやれるような公務ばかりを渡さないでほしいと」
「やはりそうでしたか・・・それで二人に対してどのような処置を取られたのですか?」
「それについてだが、流石に不安が大きいとは言え次期王に女王の立場につかねばならぬ二人が我々の心配を受けてばかりと見られては、事実を知らぬ貴族達の不安の声が出るのではと陛下の間で話になったのだ。だから我々はまずはと試しに普通に公務を行わせてみたのだが・・・最初の内はよかったのだ・・・まだな・・・」
公爵はその時を振り返るように話をするのだが、カノンの疑問の声に自分達だけの都合を優先出来なかったことを無念とするよう漏らす。
「・・・いかに不満が出てきたとは言え、いきなり重要な公務を任せる訳にはいかないからと段階を踏んで公務を任せてきた。その上で公務をこなすならいつまでも二人でいさせる訳にはいかないと、二人を分けて配置したのだが・・・時間が経つにつれてアッシュが辺り構わず怒鳴り散らすようになっていったのだ」
「・・・ナタリア殿下の姿がなくなったから、だけではないのですか?」
「それもあるのだろうが、もっと単純な話で・・・デスクワークが性に合わなかったのだ」
「・・・は?」
その上でちゃんと順序だてた対応をして尚アッシュが我慢出来なかった事を公爵は言い、カノンは理由を聞くがあまりにもシンプルな答えがきたことに意外な所で呆気に取られる。
「・・・カノン、お前の言いたいことは分かる。そんな理由なのかと。だがアッシュと直に顔を合わせて話をしてみた結果として、これが一番しっくり来る答えだったのだ。さっき言った神託の盾の事に関して合わせて言う形でもな」
「はぁ・・・ちなみにどのような会話だったのでしょうか?」
「うむ・・・私はアッシュに対して何故苛立ちをぶつけたのかと聞いた。そこで詳しい話を聞いていく内に色々と小難しい話をどんどんとされていくのがイライラしたと言う風にアッシュが言った後、私は聞いた。神託の盾で公務程ではないにせよ、書類を相手に仕事をしたことはなかったのかと・・・答えはほとんどなかった、とのことだ」
「ほとんど?」
「・・・直接聞けば、アッシュは都合の悪い部分は私の前では怒りはせずとも口をつぐむ。そう考えた私は遠回しに話をして、アッシュがどのように神託の盾で過ごしていたのかを聞いた。その結果幾分か推測混じりの物になるが、ヴァンはアッシュに書類整理などの仕事を任せようとしていなかったと思われる。理由として思い当たるのは二つ・・・一つはアッシュを人目から避けるために信頼出来る手の者の中だけに留めておきたかったということと、もう一つはヴァン率いる神託の盾のやり方はタルタロスを襲うと言ったような内密な武力行使が主だった為に、アッシュにそれらの処理の書類仕事が回ってこなかったのではとな」
「・・・確かにタルタロスの襲撃は本来表沙汰にしたなら、マルクトとダアトの間で即刻開戦となってもおかしくなかったはずの物で報告の書類が残っているのもはばかられるような物。そして謡将率いる神託の盾が担当していたであろう任務であったり独断の行動はそれこそ公式の書類になど残せぬ物・・・だからこそデスクワークと言った物を行うことがほとんどなかった、という事ですか」
「あぁ、私はそう考え陛下にその事について考えを述べたら頭を抱えながらも納得された・・・そして言葉が悪いと自覚しながらも言われたのだ。ここまで神託の盾の生活によってアッシュが脳味噌が筋肉になっているとは思っていなかった・・・と」
「脳味噌が筋肉に、ですか・・・(言いえて妙だが、流石に王という立場にいる人間に公的な場でないとは言えそんな風に言うとはな・・・)」
公爵はその反応は分かるとしつつそう思った理由と経緯についてを話していくのだが、インゴベルトが漏らした王族らしくない俗な言葉にカノンは言葉を否定しなかった。微妙な気分にはなりはしたが、自分も納得したために。










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