聖闘士と冥府の誘い

「・・・さて、配下のお役目を奪ってしまったこと・・・慎んでお詫び致します」
「あっ、いえ・・・それは構わないのですが、何故貴方が動いたのですか?」
「何、簡単な事です。そちらのお嬢さんでもこちらの神託の盾の捕縛は出来たでしょうが、それでは少し場が荒れると思ったのでルーク様に導師の身を案じ手早く動いただけですよ」
「・・・そうですか」
だがそんな楽しそうな表情などまるでなかったかのよう打って変わって丁寧に頭を下げるデスマスクにイオンは呆気に取られながらも何故動いたのかを問えば、二人の為と手っ取り早い解決をと返され何とも言えない微妙な表情になる。
『随分と調子がいいな、デスマスク。正直な所で言えば単純にイラついたが本音の大半だろう。お前の一番嫌いなタイプのはずだ、その女は』
『まぁ固いことを言うなよ、カミュ。このちっちゃい嬢ちゃんに任せてたら時間がかかるのも予想出来ただろ?結果オーライ、それで済まそうぜ?』
『・・・まぁいい』
その中でひっそりテレパシーを用い会話を試みるカミュだが、デスマスクは飄々とした口調を崩さず正論を返してきたのでそれ以上何も言わずに会話を打ち切る。



・・・カミュにははっきり言わなかったが、ティアがデスマスクの嫌いなタイプというのは確かな事実であった。

偽悪的であったり自身の思想からの行動で常識は自身にあるものが基準にあると考えていると思われがちのデスマスクだが、その実は常識に加え様々な知識に関して一般的な水準以上の物を持っている。ただ行動が多少問題視されていただけで、デスマスク自身は堅苦しくない程度には常識ある態度という物を好んでいた。

その点ティアという人物に関して言うなら常識をどこか遥か彼方に置いてきたような事ばかりを言い、そのくせして杓子定規に型に填まったような事ばかりしか言わない・・・これはデスマスクの好む程好く堅苦しくない常識という物から大きくかけ離れていた。

故に適当に言い訳をでっち上げてティアを攻撃したデスマスクだが、カノン達が一切止める素振りもなかった辺り救いようがないと言えるだろう。



「・・・さて、場も収まったことですし話を続けてもよろしいでしょうか?」
「・・・えぇ、どうぞ」
そんな中でまるで今までのやり取りをまるで自分が解決したかのようのうのうと話に戻りたいと言い出すジェイドに、カノンは何も言わず丁寧にその問いかけに首を縦に振る。
「先程も言いましたが我々はキムラスカとの和平に向かう最中なのです。内密にですがイオン様に仲介を申し出る形で」
「内密にというのは和平に対してよく思ってない者達への対応というのは理解出来ます。導師に仲介をしていただくのもそれだけマルクトが和平に対して本気だということも・・・そしてその上でルーク様をこのタルタロスに連れてきたのは、その和平の橋渡しに協力してもらうためだということも」
「どうやら察しのいい方のようですね」
それでさっきの流れを汲んで話を続けるジェイドだが流れを読んだ上でルークに求めることを察したカノンに、値踏みするような静かな目を向ける。
「それで・・・もしその橋渡しを断ると言えば、ルーク様をどのようにされるおつもりでしょうか?」
「こちらとしましては協力をしていただけるなら、貴殿方を丁重にバチカルに連れて差し上げるおつもりです。ですが和平の件は出来る限り内密に進めたい物です、もし断るとなれば貴殿方にはこのタルタロスに軟禁させていただきます。いらぬ情報の漏洩を避ける為に」
「・・・っ!」
「・・・ほう」
「ジェイド、それは・・・」
その上で断った場合の事を聞くカノンにジェイドは平然と軟禁と言い出し、ルークは驚愕してカノンは冷たく低くなった納得の声を上げイオンはその判断を批難するかのような目を向ける。
「イオン様、心配なさらないでください。こちらとしてもキムラスカの王族の方を無闇に害するつもりはありません。ただ素直に協力していただけるというのであれば、すぐに解放して差し上げるおつもりです」
「ですが、それは・・・!」
「ククク・・・随分と強気に出るじゃありませんか、一大佐風情が」
「えっ・・・?」
「カノン、ちょっと俺に任せてくれ。何、変に時間は取らせねぇからよ」
「・・・あぁ、わかった」
だがその視線に大丈夫と言いつつその実全く態度を弁えないジェイドに尚も言いすがろうとイオンはするが、明らかに先程までと違う礼儀の欠片も見せない素のデスマスクの楽しそうな声に戸惑い止まる。そんなイオンを尻目にバトンタッチをねだるデスマスクに、カノンは少し間を空け首を縦に振る。









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