聖闘士と冥府の誘い
・・・そして時間は戻り今になるが、チーグルとライガの件についてはここでは関係ないので置いておく。問題なのはイオンだ。
昨日イオンは二回、アイオロスより注意を受けているのだ。個人的な事をしないように、導師としての自覚を持って動いて欲しいと、けして突き放すようにではなく期待するような形で。だがその期待をイオンは裏切ってしまった・・・それもあろうことかアイオロスの目の前で。
更に言うならカノン達の言っていることは被害者側からしての当然の要求であり、イオン自身もそうすることが正しいのだと理解した上でティアを可哀想だからというだけで味方に立っていた節がある・・・そこをアイオロスに突かれてしまったことはイオンにとって、あまりにも苦痛であった。例えほんの少しの時間の繋がりとは言え兄の温もりを覚えた人物から、失望にも似た想いを受けながらの指摘は・・・
「・・・話を戻します、導師。再度申し上げますがティア=グランツをここで助けることが彼女の為、そしてダアトの為になるとお思いですか?」
「・・・っ!」
・・・だからこそ逃げることを許さないアイオロスの厳しい目に問いかけは、イオンの心を深く抉る。
話を戻され再度自身に向けられるそれらにイオンは泣きそうになるのを自覚しながら、抵抗出来ずに自然に顔を上げる。
「・・・もう貴方もお分かりのはずです。ただ同情してやみくもに味方をするだけが優しさではないと。本当に優しいというのは時に相手を傷付けてでも正しい道に導くことで、更に言うならその相手を信頼するならばこそ正しい道に戻ってくれると信じること・・・少なくとも、私はそう思います」
「っ!」
だがここでアイオロスが相手だけでなくまるで自分自身にまでも問いかけているかのような柔らかな声を向けた事で、イオンは衝撃を受けたようにハッとした。
(・・・相手を傷付けてでも正しい道に導くこと・・・相手を信頼するならば信じるべき・・・アイオロスさんは僕にそう示してくれた。たった今失望したはずの僕に・・・なら僕が出来るのは・・・!)
・・・イオンの中に流れ込んだアイオロスの言葉は自身の中の道徳心に響いた、他者に優しくあることの本当の意味が。そしてそれを理解出来たのは今こうやってアイオロスが自らに実践してくれたからこそ、身を持って体感出来た。
今までにない程に自身の中に満ち溢れてきた想い・・・その想いがイオンに力を与え、ある決意を抱かせた。
「・・・さぁ導師、いかがされますか?・・・もし断る「そんなことはしません」・・・え?」
・・・アイオロスは尚ティアを庇うのか、その問いかけをしようとした。だがその声は今までになく自信に満ちたイオンの声により遮られる。
「僕は貴殿方にアニスの言うようにティアを引き渡す事にしました。ですので断るなんてしません」
「なっ!?イ、イオン様!?」
「・・・そうですか」
そして出された結論は毅然とした表情からのティアの引き渡しの了承。先程までと打って変わったイオンに味方だったはずの存在から見捨てられたと言わんばかりにティアが大声を上げるが、そんなことは関係なしにアイオロスの瞳が柔らかく細まる。
「イオン様、考え直してください!私はそんなつもりはなかったし、向こうが大袈裟に言ったことを真に受ける必要なんてありません!」
「・・・アニス、ティアを黙らせてください」
「えっ・・・あっ「あぁその必要ない。そいつ黙らせんの俺に譲ってもらうぜ」・・・えっ?」
ただアイオロスに目をやる暇もなくただ見捨てないでと必死にわめきだしたティアに対してイオンが今までにない威厳を持って処分を命じる声を出したことに、アニスは最初戸惑いはしたが気を取り直し是と返そうとした時にデスマスクの声が入ってきたことで一同はデスマスクの方を一斉に見る。そこにはデスマスクの気だるげでいて同時に不愉快だと言わんような表情があった。
「つー訳だ。もっかいねんねしな、クソアマ」
「む、むざむざやられたりなんかしないわ!」
‘ゴッ!’
「がっ・・・!?」
‘バタンッ’
「はい、お休み」
そしてつかつかとルーク達の後ろからティアの方に無造作に歩いていくデスマスクにティアは怯みながら立ち向かおうとするが、即座に踏み込んだデスマスクの容赦ない肘がティアの後ろの首筋を捕らえた事で抵抗する間もなく苦悶の声を上げ地面に倒れる・・・その際のデスマスクの表情は少し楽しそうに口角が上がっていた。
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昨日イオンは二回、アイオロスより注意を受けているのだ。個人的な事をしないように、導師としての自覚を持って動いて欲しいと、けして突き放すようにではなく期待するような形で。だがその期待をイオンは裏切ってしまった・・・それもあろうことかアイオロスの目の前で。
更に言うならカノン達の言っていることは被害者側からしての当然の要求であり、イオン自身もそうすることが正しいのだと理解した上でティアを可哀想だからというだけで味方に立っていた節がある・・・そこをアイオロスに突かれてしまったことはイオンにとって、あまりにも苦痛であった。例えほんの少しの時間の繋がりとは言え兄の温もりを覚えた人物から、失望にも似た想いを受けながらの指摘は・・・
「・・・話を戻します、導師。再度申し上げますがティア=グランツをここで助けることが彼女の為、そしてダアトの為になるとお思いですか?」
「・・・っ!」
・・・だからこそ逃げることを許さないアイオロスの厳しい目に問いかけは、イオンの心を深く抉る。
話を戻され再度自身に向けられるそれらにイオンは泣きそうになるのを自覚しながら、抵抗出来ずに自然に顔を上げる。
「・・・もう貴方もお分かりのはずです。ただ同情してやみくもに味方をするだけが優しさではないと。本当に優しいというのは時に相手を傷付けてでも正しい道に導くことで、更に言うならその相手を信頼するならばこそ正しい道に戻ってくれると信じること・・・少なくとも、私はそう思います」
「っ!」
だがここでアイオロスが相手だけでなくまるで自分自身にまでも問いかけているかのような柔らかな声を向けた事で、イオンは衝撃を受けたようにハッとした。
(・・・相手を傷付けてでも正しい道に導くこと・・・相手を信頼するならば信じるべき・・・アイオロスさんは僕にそう示してくれた。たった今失望したはずの僕に・・・なら僕が出来るのは・・・!)
・・・イオンの中に流れ込んだアイオロスの言葉は自身の中の道徳心に響いた、他者に優しくあることの本当の意味が。そしてそれを理解出来たのは今こうやってアイオロスが自らに実践してくれたからこそ、身を持って体感出来た。
今までにない程に自身の中に満ち溢れてきた想い・・・その想いがイオンに力を与え、ある決意を抱かせた。
「・・・さぁ導師、いかがされますか?・・・もし断る「そんなことはしません」・・・え?」
・・・アイオロスは尚ティアを庇うのか、その問いかけをしようとした。だがその声は今までになく自信に満ちたイオンの声により遮られる。
「僕は貴殿方にアニスの言うようにティアを引き渡す事にしました。ですので断るなんてしません」
「なっ!?イ、イオン様!?」
「・・・そうですか」
そして出された結論は毅然とした表情からのティアの引き渡しの了承。先程までと打って変わったイオンに味方だったはずの存在から見捨てられたと言わんばかりにティアが大声を上げるが、そんなことは関係なしにアイオロスの瞳が柔らかく細まる。
「イオン様、考え直してください!私はそんなつもりはなかったし、向こうが大袈裟に言ったことを真に受ける必要なんてありません!」
「・・・アニス、ティアを黙らせてください」
「えっ・・・あっ「あぁその必要ない。そいつ黙らせんの俺に譲ってもらうぜ」・・・えっ?」
ただアイオロスに目をやる暇もなくただ見捨てないでと必死にわめきだしたティアに対してイオンが今までにない威厳を持って処分を命じる声を出したことに、アニスは最初戸惑いはしたが気を取り直し是と返そうとした時にデスマスクの声が入ってきたことで一同はデスマスクの方を一斉に見る。そこにはデスマスクの気だるげでいて同時に不愉快だと言わんような表情があった。
「つー訳だ。もっかいねんねしな、クソアマ」
「む、むざむざやられたりなんかしないわ!」
‘ゴッ!’
「がっ・・・!?」
‘バタンッ’
「はい、お休み」
そしてつかつかとルーク達の後ろからティアの方に無造作に歩いていくデスマスクにティアは怯みながら立ち向かおうとするが、即座に踏み込んだデスマスクの容赦ない肘がティアの後ろの首筋を捕らえた事で抵抗する間もなく苦悶の声を上げ地面に倒れる・・・その際のデスマスクの表情は少し楽しそうに口角が上がっていた。
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