聖闘士と冥府の誘い

「・・・出過ぎた真似をしてしまって申し訳ありません、導師。本来このような事は私のような者が言うべきではないのですが」
「あ・・・いえ、いいんです。立場上僕の事を叱ってくれる人はいませんでしたし、不思議とアイオロスさんの言葉が心地よかったんです。僕には兄はいないんですけど、兄が僕を厳しくも見守ってくれるような・・・そんな感じが・・・」
「・・・そうですか」
そこでアイオロスは立場をわきまえたように謝罪の礼をすれば、イオンは不快そうにではなく逆に柔らかく嬉しそうに頬を緩ませ大丈夫と返す。その姿にアイオロスもそれ以上は何も言わずに微笑を浮かべた。
「・・・あ、そろそろもう日も落ちきってしまいますね。すみません、ご迷惑をおかけしました。僕達は行かせていただきます」
「えぇ、わかりました。機会があればまた会いましょう」
「えぇ、では」
と、イオンは日がほとんど落ちかけている辺りの様子から大分時間が経っているのだとふと気付き戻ると別れの言葉をかける。アイオロスもそれに丁寧に返しイオンは微笑を残し、アニスと共にその場を後にしていく。
「・・・アイオロス、貴方は全ての事を話してはいまい。チーグルの森で何が起きたか、聞かせてもらおうか」
「・・・まぁ確かに全部は話してはいない。とはいっても少しだけ、だがな」
二人だけになったところでカミュが冷静にまだ何かあるだろうと問い詰めると、アイオロスは苦笑気味に少しだけと返す。
「俺はチーグルを介して説得に入ったんだがライガは産卵期に入っていたらしくて、やたら気が立っていてな。子供が生まれるまでは動かないと言われた上に、そもそもチーグルの森から出てどこに行くかの当てすらもないから動けないと言われたのでな。悪いのはチーグルだから一方的にライガを排するのは流石に気が引けてな・・・説得の後すぐに俺が移る場所を探した上で俺が移動の手伝いをしたことで事なきを得たんだ」
「・・・成程、確かにそこまで言ってしまえば我々の異質さを露呈してしまうな」
「だろう?だから敢えてそこまでは言わずにいたんだ。それにライガ自身も結構話をわかってくれて、俺がそうしたら案外あっさりと引いてくれたよ」
・・・アイオロスは軽く言ってはいるが、ライガという生き物はそんなに理性的な生き物ではない。むしろ狂暴な生き物だ。だがその狂暴な生き物を御せたその理由はアイオロスの言ったよう、すぐに事を済ませたことに起因している。聖闘士の能力を持って事に挑めたからこそすぐに走り回ってライガが住むのに適した場所を見つけれた上、常人にはない能力の数々でライガの卵共々ライガの身柄を別の場所へ移すことが出来た。
だがそんなことを言ってしまえばイオン達が信じるかどうかわからない上、信じても異質な物を見る目で見られるだけ。そう考えたアイオロスの考えを、カミュは納得して頷く。
「ただその後チーグルからライガのお礼の為に俺に付いてって恩返しをしたいって食い下がって言われた時には少し困ったな。こっちは別にそんなことしてもらうためにチーグルの森に来たわけじゃないから。だからちょっと説得に時間はかかったけど、なんとか納得はしてもらったよ」
「・・・貴方がそういうのですから、余程時間がかかったのですね」
「恩返しをすることにこだわってたからな。だからチーグル達には言い方は悪いが、こう言って引き取ってもらったんだ。『君達は俺に恩返しをするんじゃなく、迷惑をかけたエンゲーブの人に罪滅ぼしの為に行動するべきだ。そもそも君達の行動がなければエンゲーブの人が困って導師も俺も動くことはなかったんだから、俺や導師への恩返しよりエンゲーブの人に罪滅ぼしをするべきだ』とね・・・それでようやく納得してもらえたんだ」
「そういう事ですか・・・」
その上でどれだけチーグルの説得に時間をかけていたのかを語りアイオロスらしくもなく突き放す言葉をかけたことに、カミュも再度納得する。
・・・本来のアイオロスならチーグルの恩返しを引き受けただろう。だがカノンの手伝いで今ここにいる現状でいつ帰るかもわからないのに無責任にそんなことを引き受けるほど、アイオロスは無責任ではない。故にアイオロスは厳しく突き放したのだ、チーグル達を。
「さ、チーグルの件も解決したんだ。宿に戻ろう、カミュ」
「そうですね、戻りましょう」
そんな素振りなど見せず明るく宿に戻ろうと誘うアイオロスにカミュも同意して、二人揃い宿に向かう・・・







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