聖闘士と冥府の誘い

・・・守るべきものがあれば人は強くなる、という言葉があるが同様にその守るべきものに気を取られ捕らわれてしまう事も十分に有り得る。カミュはそう考えている。

スパイとして身を置いているアニスは確かに両親を守る為に動いているのだろうが、裏を返せば事情さえあれば誰もかれもを傷つける可能性も出てくる。それこそスパイをしている相手のイオンも、そして今の現状ではルークにまでも最悪の場合被害が及びかねない・・・それは今カノンに協力している身である事と、更にはモースが人として最低の行為をしている事からただ見過ごす事などカミュには出来なかった。

故にカミュは決めた、いかなることがあろうともアニスを含めたタトリン一家をモースから引き剥がそうと・・・



「・・・とは言え私達は明日にはここを出る予定だ。バチカルに戻り次第君の両親を保護するよう公爵に申し出る。ダアトから内密に連れ出せるようにな。君とは導師がマルクトから何か秘密の役割を頼まれただろうことからしばらく顔を合わせる事はないだろうが、それまでは程々にスパイを続けていてくれ。導師だけでなく他人に迷惑をかけない程度にな」
・・・だがさしあたって、今はバチカルに戻る以外に出来ることはない。カミュは必要な事を言い含めてそこで話を終えようと、村の方に向き直る。
「あっ、ちょっと待って・・・」
「・・・なんだ?」
だがその足はアニスの物言いたげな声によって止められ、カミュは振り返る。
「・・・これはイオン様に大佐の事もあるから詳しくは言えないんだけど、あたし達もすぐにバチカルに行くことになると思うからその時に出来れば答えを聞きたいんだけど・・・いい?」
「・・・成程。いいだろう、その時にはカノンから答えをいただいておく。ファブレに直接来るようになどと立場上私は言えんが、確かに君に伝えに行こう・・・ではな」
それで出てきたのはどう表現していいものかと言いにくそうながらも何とかバチカルに近い内に行けるから答えが欲しいとアニスが絞り出して恐る恐る言えば、カミュはその答えに柔らかな微笑と共に肯定を返し今度こそ宿に戻るべく村の方に踵を返した・・・












・・・それでまたの再会をバチカルでと言った空気で別れた二人だったが、今こうやって予測しない形で出会ったカミュ達。ただこれはあくまで偶然であるとカミュは理解している。

カミュはジェイドの人格に発言の仕方からして遠回しで皮肉っぽい言い方をする中で、別にバラしても構わないと言った情報は平気で明かす傾向にあると感じていた。そしてそんな言い方をするジェイドがアニスから情報を受けたと言った言い回しはしていなかったことと、何よりアニスが申し訳なさそうな視線を送ってきた事が決め手となった。

そんなものだからカミュに加え未だ話をするには早いとルークを除いてアニスの事をカミュから聞かされたカノン達は、アニスの事を白と見て必要にない接触を避けるべく暗黙の了解で言葉をかけなかった。ちなみにアニスとその両親についての対処はカミュの言った通りにすると、カノン達の中でも結論づいた。

・・・それで今こうやってタルタロスの中で一緒にいるわけだが、言ってみればただ自分本位でしかないティアの発言はカミュ達とアニスからすれば共通で不快な物だった。それに加えアニスはここでカミュ達に確かな協力の姿勢を見せることが、信用に繋がると思ったからこそイオンに遠慮することなく今ティアを攻撃しているのだ。



「・・・それにこれはいずれイオン様も聞かないといけない問題なんですよ」
「えっ・・・?」
・・・尚も続くアニスからの攻撃だが、今度はイオンにその矛先が向く。そのイオンにとって嫌な予感しか感じられない声にたまらずイオンは身を引いた。








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