・・・カノンは経緯を一つ一つ説明した。ファブレで何が起きたかに、そしてどう言った経緯でこのマルクトまで来たのかを。その際は勿論デスマスク達の事は適当にぼかしておいたが。



「・・・という訳で私はその女を謡将及びファブレを襲った事から、ルーク様の保護と共にその女を捕らえバチカルに戻ってくるよう公爵に指示をいただいているのです」
「・・・そうなんですか・・・」
そして訳を説明し終えた頃には、イオンは何とも言えない複雑きわまりない表情に変わっていた。
「・・・そんな、兄さんが・・・」
「今さら何を言っている、貴様は」
それで当の本人はと言えばヴァンと呼び捨てにしていたことなど上の空といった様子で兄さんと呟けば、その変わりようにカノンは冷たい視線を向け冷たく言葉を吐き捨てる。
「貴様は個人的な事と言ったな？だが個人的な事情も多数の人間を巻き込めば立派に大規模な事情へと変わる。貴様の個人的な事情に巻き込まれたファブレからすれば謡将の事も含め、その事情を聞かねば収まりがつかん所に来ているのだ。それを貴様に分かるようレベルを下げて例えてやるが、貴様ら二人の兄妹喧嘩に巻き込まれて何故か意味なく殴られていったようなものなのだファブレは。それで意味の分からん争いに巻き込まれて関係無いだとか事情は言えんだとか謝るだとか言われた所で、こちらは収まりがつかんのだ。ましてやファブレはキムラスカにおいても王族に連なる重要な地位にいる貴族だ。分かるか？これも貴様に分かりやすいように例えてやるが、ダアトなら意味なく大詠師が襲われたという事態だ。そんな状況で貴様はその襲撃犯に巻き込まれる原因となった者を許せると言うのか？・・・答えろ」
「・・・っ！」
・・・明らかに馬鹿と見て、下の立場と見下した上で、噛み砕いて状況を説明した。
そんなカノンの敵意を剥き出しにした分かるかとの問いかけに、ティアは言葉を返すことが出来ず冷や汗を大量に浮かべながら知らず知らず後退した。
「・・・導師イオン、話は聞かれていましたね？」
「えっ、あっ、はい・・・」
その姿に今度は静かにイオンに視線を向けて問いかければ、戸惑いぎみに頷く。
「こちらとしては手荒な事はしたくはありません。ですがそのような事をされた以上、我々としては黙っているわけにはいきません。そちらのティア＝グランツ・・・引き渡していただけますね？」
「・・・それは・・・」
あくまで丁寧だが、否定は許さないと無言の力が多大にこもっている。その声にイオンは視線をさ迷わせ、何か言い訳を探そうとしている。
「・・・イオン様、あたしはティアを引き渡す方がいいと思います」
「えっ、アニス・・・！？」
「・・・！？」
そこにカノンを擁護するよう言葉を上げたのは、なんとアニス。言いにくそうながらも確かに上げられた伺うような声にイオンもティアも何をと言った驚きの視線をアニスに向ける。
「だってそうじゃないですか。ティアを起こして話を聞いた時も結局自分がやったことを言おうとしなかったばっかりじゃなくて、自分が被害にあったんだみたいに言ったし・・・ティアがルーク様を巻き込んでしまったのに、それを棚に上げた形で」
「それは・・・でも、殴られたのはホントの事よ！」
「それもこの執事の人が言ったじゃん。ティアがファブレで起こした事の重要性を理解してないから、無理矢理にだってバチカルに連れていく為だって。それにこの執事の人が例えて言ってくれたじゃん・・・ティアが起こした事ってダアトだと大詠師が襲われる程の事件だって。そんなことされたら殴られるだけじゃ済まないって分からないの、ティアは？」
「・・・それは・・・」
「・・・」
その視線にイオンに向けいかにその行動が愚かかとアニスは語るが、ティアはすぐさま自己弁護でカノンの行動の批難をするよう叫ぶ。だがそれも冷静にカノンの例えを引き合いに出してアニスが返したことで、ティアは言葉を無くした。その上イオンも何も言えずにいる。
「・・・」
そんな姿を尻目にアニスは密かに一瞬だけ・・・カミュの方へと視線を向ける。



・・・本来アニスは余程酷くなければ基本イオンに逆らうような事は言わないよう、スパイとして変に目をつけられたり遠ざけられたりしないように導師守護役として動いてきた。ここで従来のアニスであったならイオンに反発する意味はないだろう。何せ言ってしまえばそこまで重大な出来事などではないのだ。表面上仲良くはしようとも、アニスからすれば大して交流のないティアをどうするかなど。

だがそうしなかったのは昨日のカミュとの話があったから、というのがある・・・









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