問われる神への言葉と従う者達

「・・・それについては今から説明しますが、これから話すことに関してはしっかり受け止めてください。いいですね?」
「はぁ・・・」
聖闘士一同が疑問を抱く中、イオンが真剣な面持ちで前置きをする様子に市長は首を傾げながら答える。












・・・それからイオンに時折カノン達が補足をしながら市長への説明が行われた。今までの一連の流れについて。その話に嘘だ嘘だと市長は信じる事を拒否するように言葉を発していたが、ヴァンが第七譜石の中身を知って動いていたという話をし出した時から次第に静かになって話を聞いていった。



「・・・それで私達はダアトから詠師の皆さんを連れてきて、これからの事についてを話に来たんです。今までの話からどのように動くかを共に決め、考えていく為に」
「・・・だからこのユリアシティに来た、と言うわけですか・・・」
「はい、そうなります」
そして話を終えて目的を真摯に述べるイオンに右手で頭に手を当て、左手で机に体重をかけながら重い空気をまとわせつつ答える。
「・・・正直な事を言って、とても信じられるような中身ではありません・・・ですがまさかヴァンがそのような事を知って動いていたとは・・・何故私にその事を言わなかったのだ・・・」
「失礼ですが、何か謡将とご関係でも?」
「・・・私はヴァンとティアの祖父だ」
「っ・・・二人の祖父、ですか・・・」
そのまま独り言を漏らすように口を開く市長にカノンが繋がりを感じるような言葉遣いに疑問を向けると、祖父と返した事に憂うような顔を浮かべる。
「・・・おそらく貴方に何も話さなかったのはその時の謡将が貴殿方がホドの消滅の事実を告げなかった事に加え、一つ間違えれば自分を殺しかねなかった事を少なからず根に持ったのではないかと思われます。このユリアシティという場にいる人間がどのような思想の元に動いているのかを幼いながらに理解していたからこそ、何を言っても無駄どころか迫害される可能性すらあったと考え」
「なっ・・・ヴァンは確かに危険な目にはあったとは思いますが、それも全て預言の為の事・・・そう理解しているからこそ大丈夫と思っていたのですが・・・」
「ではお聞きしますが、預言の為に死ねと言われたなら貴方は死ねますか?」
「はっ!?何故いきなりそんなことを・・・!?」
「市長、貴方が言っていることはそう言うことなんですよ」
そのままヴァンの考えについての推察をカノンが口にすると市長は有り得ないと言ったように反論するが、死を引き合いに出した言葉に一気に動揺してカノンからのまっすぐな視線と言葉を受ける。
「自分の死を誰かの為に・・・そう言った考えは確かに美談としては常道とは言えましょう。ですが他者から理不尽に死を押し付けられて、気持ちいいと思えるような人間など普通に考えたらまず存在しません。ましてや自分が信じてきたモノから裏切られるような形になったとしたなら、一層本当の気持ちなど言うことは出来ないでしょう」
「っ・・・では私がヴァンの事をケアしていなかったから、行動を起こしたと言うのですか・・・?」
「それが絶対という訳ではないでしょうが、少なくとも謡将が貴方を信じることがなかった理由としては十分な物と言えるでしょう・・・そしてそれらを踏まえて改めて答えてみてください。預言の為に死ねと言われたなら、貴方は死ねますか?」
「っ・・・そんな・・・そんなこと、言われても・・・私は今まで預言の為にと動いてきたのに、何故私が死なねばならないのかとしか・・・」
『・・・典型的な宗教に依存する人間の考え方だな、自分の意志を宗教に向けているからこそ都合のいいことしか考えられない』
『ここに従属しているから、もしくは宗教の上にいる奴から言われたからその命令を疑いもせず罪もないと考えて実行する・・・確かに重症だな、こいつは』
そのまま市長に対してヴァンの心中を推察した言葉を向けると愕然とするが、カノンがもう一度と向けてきた死についての問いにそんなことは考えたくないし有り得ないと言わんばかりにブツブツと漏らす。その様子に小宇宙の通信でカノンとデスマスクは宗教に属する人間特有の危険性を感じて会話を交わした。








23/27ページ
スキ