問われる神への言葉と従う者達

「ただ君がどちらを選ぶかを決める前に先に言っておかねばならないが、もし君が我々に付いていかないとなった後にその事実を誰かに伝えるような事はしない方がいい。今のダアトでもこれからのダアトでも出来る限りは導師の事について黙っておくようにするつもりで我々はいるが、それが誰かの手でおおっぴらに公表されてしまえば導師がいかに庇おうと他のダアトの上層部の人間がどう動くか分からなくなるからな」
「っ・・・そんなことをトリトハイム達が・・・」
「しないとは限りません。むしろそうするだろうという前提で考えた方がいいでしょう。ですからこそ毒を食らわば皿までの覚悟で付いてくるか、貝のように口をつぐんでずっと黙るか・・・それを選ぶ必要があるのです。彼女はどうするべきかを真剣に」
「っ・・・」
アイオロスはそこで再度注意を促すように口を開きイオンは信じられないと漏らすのだが、真剣に偽りなく告げる様子にたまらずアニスを見る。
『一応釘刺しは済んだね、彼女に対して』
『まぁな』
その瞬間にアフロディーテからの小宇宙による通信が入り、アイオロスも答える。



・・・そう、口を滑らせた場合のことをわざわざ言ったのはアニスに対する釘刺しの為である。もしアニスがここでリタイアを選んだ場合に良からぬ事、イオンの事実を持ってダアトに揺さぶりをかけようとした場合の事を考えてだ。一応そう言ったことをしないとは全く考えられないとは言えないし、悪意はなくともポロッとそれらが口にされてしまえばダアトは事態の収拾に追われることになるのだ。その事実が広まった場合、下手をすれば暴動以上の規模の事が起こりかねない為に。

そしてそんな事態になることはカノン達も望んではいない。だからこそこうやってアイオロスに釘刺しの言葉を言ってもらったのだが・・・



「・・・もし私がその事を言ったらそうなる可能性が高いんですよね?・・・だったら安心してください。私はそんなこと話しませんし皆に付いていきます・・・!」
「っ、アニス・・・」
・・・今のアニスは心を奮い立たせてカノン達に付いてきている為、迷いはない。
集まる視線の中で決意は固いと真っ直ぐ前を向き意志を灯した瞳を向け答えを返すアニスに、イオンは少し呆然としたように名を紡いで漏らす。
「・・・いいんですか、アニス?今の貴女はオリバー達の借金も無くなった事で無理に僕に従う理由も無くなりましたし、言ってくれれば導師守護役をやめるように僕が都合をつけることも出来ますよ?」
「いえ、イオン様・・・ファブレで匿われることになってからずっと考えていたんです。何か私に出来ることはないのかって・・・それでここでもし事実を黙るだけなんて事を選んだら、ずっと心残りになると思うんです。私は何もせずにいたんだって・・・」
「アニス・・・」
「では以降は我々と行動を共にするということでいいのかな?」
「はい、大丈夫です」
それで再度意志の確認をするイオンだが、苦悩をしたと言いつつ迷う意志を見せず返す姿に粟立ちを覚えたように声を漏らし、アイオロスが最終確認を向けるとアニスはすぐに力強く頷く。
「分かった、そう言うことなら我々は君を歓迎するが・・・後は導師がどう思われているかです」
「・・・正直、思わない所が無いわけではありません。アニスが無理をする必要はないのではないかと・・・ですがアニスの意志が固いのは分かりました。そんなアニスの意志を無駄には出来ません・・・これからよろしくお願いします、アニス」
「はい、イオン様!」
そしてアイオロスがイオンに最終確認をしてほしいと言えば、思う所と言いつつ受け入れると言えばアニスは晴れやかな笑みを浮かべて頷いた。今までの悩みが一気に消えたかのように。








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