問われる神への言葉と従う者達

「この事に関して以前我々の中で話題に上がったのですが、彼女に事実を明かす方がいいのではないかという話になりました」
「それは、何故・・・」
「あくまで我々から見ての話になりますが、その方が彼女の精神的な安定の為にもいいと思った為です・・・今の彼女は大詠師のスパイという立場を脱したとはいっても、その心の内はまだ完全に安心感に満ちているかどうかは分かりません。むしろ彼女の様子から見て後ろめたいという気持ちを持っている可能性が高いと我々は見ています。自分がやってきたことに」
「・・・っ!」
それでアイオロスがアニスに対しての考察を述べていくが、その中身に息を呑んでしまう。アニスはまだ苦しんでるかもしれないと、そう聞いてしまい。
「そしてその気持ちが導師に対しての引け目となっている可能性も否定出来ません。自分は何故今ものうのうと罰もなく導師守護役としているのか、と」
「それは・・・でもカノンさん達が何とかしたから、彼女はもうそう言ったことを考える必要は・・・」
「あくまで我々が行ったことはタトリン一家を借金とスパイの立場から救うことで、彼女の罪の意識までもをどうにかするといった物ではありません・・・現に彼女は気まずいと言ったようになりながらも我々に付いてきました。おそらく導師より大丈夫だと頑なに同行はしなくていいと言われたのにも関わらずです」
「・・・っ!」
更にイオンに対する引け目について言うアイオロスに何とか反論しようとするが、まるでその時の事を見たかのようにアニスの行動を予想されすぐに言葉を失った。それは事実だとイオンが思った為に。
「それはおそらく彼女がせめてもの償いにと、何も出来ないままに終わることを嫌った為だと思います・・・ですが、それでは彼女はいつまで経っても後ろめたい気持ちを晴らすことなど出来ないでしょう。そしてその心中を明かすことなど出来ぬまま、以降を過ごすことになりかねません」
「・・・だからって、何故事実を明かす方がいいということになるのかが僕には分からないのですが・・・」
「・・・このような言い方をしてもいいものかという気持ちもございますが、彼女の罪の意識を他に向けさせる為です」
「え・・・?」
アイオロスはアニスの心中について更に推測を続ける中でそうする意味についてイオンは訳が分からないと言うと、核心を告げるように言葉を紡ぐ様子に目を丸くする。
「無論それだけが狙いというわけではありませんが、彼女も導師を含めたダアトの事実を知ればどのように行動すべきかを考えるでしょう」
「それが、罪の意識から他に目を向けさせる事だと・・・」
「・・・彼女は歳の割には聡明な面がございますが、それ故に一度こうだという考えに囚われてしまった時に一人で解決しようと思い悩む傾向があります。感情を溜め込み理屈で物事を考えようとして・・・そして何も行動せずにいたならそれこそ彼女はその考えに囚われてしまうだけでしょう。そう言った事態を避けるには彼女に事実を伝える方がいいと思うのです。我々と秘密を共用して事実を知ってもらうことによりその考えに至らないようにするために」
「!・・・それで僕の事を知ったなら、少しはアニスの気持ちも紛れるのではないか・・・と言うことですか・・・」
「はい、そうなります」
それでまだ狙いはあると言いつつそうする方がアニスの精神上にいいと言うアイオロスにイオンもその考えに思い至り、静かに噛み締めるように呟く。










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