取捨選択を求められる者達

「・・・・・・わしも、デスマスクの言うようにした方がいいと思う・・・わしも考えてみたが、どう考えてみても抑えた表現で注意してもナタリアが大人しくしてくれるとは思えぬ・・・それに何より、事がナタリアにより露見したならと思うと恐ろしくて仕方無いのだ・・・」
「成程・・・陛下はこのようにおっしゃられているがアッシュ、お前はどう考えている?」
「・・・」
そして数分した後に苦渋の気持ちをポツリポツリと語ったインゴベルトに公爵は納得した上で、次にアッシュへと考えの程を聞く。
「・・・・・・正直、俺はナタリアにそんな事を聞かせたくはありません。ですがナタリアの行動次第で世界が危機に陥るなどといった事態には、したくはありません・・・」
「・・・思うところはあるが、お前もそうすることに異論はないと言う事か」
「はい・・・」
それでアッシュもようやく口を開きこちらも苦渋の様子で大方の同意を示す姿に、公爵はそう解釈する。だがうなだれたように頷くアッシュは気付いた様子はなかった、公爵がその言葉に刺々しさを少し滲ませてた事に。
『おーおー、自分の事は棚に上げといてナタリアにそうさせたくないってよく辛い決断をしたなんて風に言えるなこいつ』
『大方アッシュからすれば自分が我慢出来ないのはルークが悪いから、だからナタリアがルークのせいで悪者になりかねない状況にはさせたくないという正義感があるのだろう』
『だがそれもアッシュが我慢するかナタリアをどうにかするという努力があれば改善出来るはず・・・なのにそれらの事から目を背けていると言うことや、公爵がいい気持ちを浮かべてないと言うのに気付かないのもまたな・・・』
そんなやり取りに公爵の気持ちに当然気付いているデスマスクはカミュにアイオロスと小宇宙による通信で会話をする。



・・・そもそも今までデスマスクが話したことというのはアッシュが我慢に受け流すことが出来れば多少の不満こそ出ては来るだろうが、ナタリアの性格を考えるとろくにアッシュとルークが再び入れ替わった事になど気にも止めることのないまま終わるだろう。記憶が戻った『ルーク』という存在に喜び、今までいたルークという存在との違和など些細な事と断じて。

だからこそナタリアは悪気もなくアッシュに対してルークのいた時の事を前を思い出しながら気楽に色々言うこともあるだろうが、その時に自分が対応しないのは・・・ルークでも誰のせいでもなく、間違いなくアッシュ自身のせいなのだ。それを考えもせずルークのせいにする有り様に公爵が気分を悪くするのも当然と言えよう。

・・・だがだからこそ、今デスマスクの言っていることは活きてくる・・・



『・・・しかしこれでアッシュをキムラスカに戻らせ、ナタリアと共に余計な発言をさせぬよう縛り付ける事が出来る・・・感謝するぞ、デスマスク』
『気にすんなよ。それにそうなる道を選んだのはアッシュ自身だ、よく考えもせずな。多分自分の状況は後でどうとでもなるしナタリアって嬢ちゃんの事もどうにかするとでも思ってんなことを言ったんだろうが、この様子を見る限りじゃ思いっきりドツボにハマってくのがオチだ。それこそ自滅って形でな』
『だろうな・・・だからこそ公爵に陛下もアッシュ達の舵取りに業を煮やす事になるだろうが、最早俺には関与出来ないことだ。後で注意くらいはさせてもらうが、二人に他の貴族には頑張ってもらわねばな・・・』
カノンもまたその会話に加わり礼を言うとデスマスクは返事を返しつつアッシュは自滅するだろうと漏らし、その意見に同意を示す。



・・・四人の目から見てアッシュにナタリアの二人が平穏無事に何事もなく、インゴベルトを始めとするキムラスカの人間と信頼を築いていく可能性はほぼ皆無だと見ている。言ってしまえば二人の我の強さは悪い意味で強く、揺るがない為に。
しかしそんな二人だが、国に弱味を握られていることには変わりはないのだ。ナタリアは城を抜け出しアクゼリュスに向かった前科や極秘だが偽物の王女という事実もあり、アッシュは神託の盾としての活動という弱味を。

その我を押さえ付けるのは確かに難しい作業と言えよう。二人の我は端から見るだけでも面倒だと分かるために。しかしそれでもそな我を押さえ付けねば事実が蔓延するよりマシにしても、厄介な事が待ち受けている可能性が高いのだ。二人は国を揺るがしかねない事を平然と起こしかねない為に。

だからこそ今こうやってデスマスクが仰々しくナタリアについての危険性を語ったのは、インゴベルトや公爵にちゃんと行動してもらうための覚悟を整えてもらうためという真の目的だったのだ。二人をもしもの場合がないよう押さえ込む、そういった気持ちを持ってもらうようにするための・・・









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