取捨選択を求められる者達

「・・・ま、今はまだ名義上アッシュと呼ばせてもらうぜ。ファブレに戻ると言いはしたがまだどんな形で戻るかを決めた訳じゃねぇから、まだ名義上はこちらのルーク様が『ルーク=フォン=ファブレ』って存在だ。それにまだアッシュである内に言っといた方がいいだろうから、変に飾り付けた言葉遣いはしねぇぞ俺は」
「上等だ・・・!」
デスマスクはそのまま挑戦的に口調は改めないと言うと、アッシュはぎらついた目で是と返す。
「ま、そう言うことなら遠慮なく話をしてやるが・・・お前が今言った事の意味を理解してねぇようだから俺から言ってやる、お前これからの生活の事を考えてんのか?」
「生活だと・・・フン、そっちの元執事から聞かされたからそれくらいは覚悟ずみだ」
「違う違う、それはカノンから聞いてる。俺が言いてぇのは二人がいなくなっての生活の事だ」
「何・・・?」
その返事に話を進めるデスマスクにアッシュはもうカノンの存在をないものとして返答するが、二人のいない生活と言われ訝しげに表情を歪める。
「お前、どうせその様子からすっとファブレに帰りゃそのまんまで帰ろうとでもしてたんだろ。何の取り繕いもせず・・・けど考えてたのか?お前がルーク様の事を追い出すって事はつまり、ファブレに戻った時は今までのルーク様の動向を真似しなきゃなんねぇんだぜ?」
「っ!?・・・んだ、と・・・!?」
「こっちやルーク様に妙な言い掛かりをされる前に言っとくが、こいつはどうしても必要な事だぜ。まぁ旅をしてる間にでも記憶が戻ったとでも言えば多少はそのショックもあって混乱したからとか誤魔化しは聞くだろうが、そのまんまファブレに戻ってルーク様としての記憶が全くないってのはいくらなんでも不自然だぜ?その辺りは公爵様からある程度はそうすることへの教授はされるだろうが、少なくともお前がやらなきゃなんねぇことの最低限の事だ」
「なっ・・・俺がそんなことを・・・!」
「・・・デスマスクの言っていることは間違っていない。まずお前がファブレに戻ればやらねばならぬことになる」
「父上・・・!?」
そこでデスマスクが口にしたのはルークの真似が必要との詳しい説明混じりの言葉でアッシュは驚いた上で冗談じゃないといった声色を上げるが、公爵が静かに正しいと上げた声に更に驚愕を持って公爵へ視線を向ける。
「・・・まさかアッシュ、お前全くそう言った事は考えていなかったと言うのか?」
「父、上・・・・・・はい、そうです・・・」
「・・・お前に話を任せてよかった、デスマスク・・・この調子で何の確認もせずに先に話を進めていたら、大変な事になるところだった・・・」
公爵はアッシュに確かめるよう静かに問い掛けると力なく間を空けながらも頷く姿に、デスマスクへと絞り出すように頭を下げる。
「それは光栄と言いたい所ですが、公爵様に陛下も感じられたでしょう。アッシュは物事を良くも悪くも・・・いえ、悪い意味合いが強くなりますが、真正面から受け止めて真っ直ぐに判断する性質があります。おそらくアッシュに奔放に振る舞わせるような事をさせていれば、ルーク様と入れ替わりで戻った事など意に介さずにいたことでしょう。それこそ先程二人を遠慮も何もなく、罵倒した時のように」
「「・・・っ!」」
デスマスクは礼を受け取りつつインゴベルトにも考えてもらうように話を振った上で先程の宣言の事を思い出させるように言えば、二人揃って青い顔になり息を呑む・・・はっきり目に浮かんだのだろう。気に入らない事に対して遠慮なく振る舞うアッシュの姿が。










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