変遷は聖闘士の引き起こす猛威

「・・・少々、予期せぬ出来事がございましたが話をお続けしましょう」
「っ・・・う、うむ・・・正直まだ動揺してはいるが、そうしよう・・・少し落ち着く為にもな・・・」
静かになって空いた間に冷や汗を浮かべてると言ったよう話を再開させるカノンにインゴベルトもハッとし、どちらかと言えば自分を納得させるかのよう頷きながらゆっくり言葉を紡いでいく。
「大詠師は今現れた者の手によりこのような状態になりました。その言葉通りなら大詠師がまたまともに動けるようになるのを見込むのは期待は出来ないと思われた方がよろしいでしょう・・・もっとも、大詠師の回復がキムラスカ、ひいてはマルクトにダアトの為になるかは疑問が残る物になりますが」
「っ・・・キムラスカにマルクトは分かるが、ダアトはどうしてなのだ?モースは敬虔なローレライ教団の信者として最も足る存在だと思うのだが・・・」
「今この場だからこそお話致しますが、大詠師は導師守護役のアニス=タトリンを自身のスパイとして登用していました。それも借金を家族に背負わせ、家族の命を盾にする形でです」
「なにっ!?」
一輝の事は深く触れず話を続けていくカノンにインゴベルトはダアトの為にならないといったニュアンスに引っ掛かりを覚え口を挟む・・・が、ここでアニスをスパイにしていた事実を出したカノンに驚愕に目を見開き未だ虚ろに声を漏らすモースを見た。
「この件に関しては別の者が調査をしてきて証拠もあり、本人もその事を自供しています」
「ま、まさかモースがそのようなことまでしていたとは・・・」
「それが大詠師・・・いえ、正確に言えば戦争の預言が詠まれた譜石の事実を知る預言保守派のやり方になります」
だめ押しするよう証拠があると告げると唖然と声をインゴベルトは上げ、カノンは押し込んでいく。これが最後とばかりに。
「先程も似たような事を申し上げましたがキムラスカの上層部にスパイを送り込むか、もしくは適任者を見つけて強制的にでもそう仕立てるくらいは容易に想像がつきます。預言保守派との関係が密になればなるほどにそう言った危険性はより高まり、これからの状況次第ではそれこそキムラスカにまで害を及ぼしかねません」
「・・・だから、ダアトとの国交の見直しをせよというのか・・・」
「はい、そうするには今を以て決断する以外にありません。そしてマルクトとの戦争を思い止まるのも今以外になく、戦争に踏み切ると言うのであれば謡将達が隠していることを聞くことも出来なくなります」
「何?ヴァンはまだ何か隠していると言うのか?」
「正確には謡将達がどのような動機でこのような事を引き起こしたのかです。大詠師がいたらそのようなことに考えを至らせるかどうかより、我々の排除をしようと考え謡将達がそう思った動機についてなど忘却の彼方になるでしょう。そして我々も謡将達にそれらの経緯を聞いてはおりません、それらの事実を明らかにしていくよりはまずバチカルに向かうことが最優先と思って戻ってきた為に」
「そなた達も聞いてないのか・・・ヴァンよ。ちなみに聞くがその経緯を我々が聞いたら正直に答える気はあるか?」
モースに預言保守派の動きがいかに危険かといった話からヴァンの真意について話を転換していくカノンに、インゴベルトは意外そうにしながらも問う。ヴァンに真意を話す気があるのかを。
「・・・アクゼリュスに着く前の私でしたら適当な言葉で結論を濁していたでしょう・・・しかし今の我々の現状で沈黙をする事は許されないでしょうし、する事もまず出来ないでしょう。話せとおっしゃるなら話すつもりではいますが、先に戦争に関してどのようにするのかという陛下のお気持ちを聞かせていただかねばなりません。今の私はこの通り囚われの身でこちらの意向に従わねばならぬ身ですし、私としてもそうしていただいた方が本来の目的には及ばないにしてもマシな状況になると思っていますので」
「・・・そなたもそうしなければならないというのか・・・むぅ・・・」
すると意外にもヴァンは話す気があると言うのだが、それがカノン達の意向に同調するかのような口調と笑みにインゴベルトも否応なしに重く頭をひねり考え込む・・・どうするかを今判断しなければならない、状況がそう求めてると理解させられてる為に。






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