変遷は聖闘士の引き起こす猛威

「どうですか?今まで預言により犠牲にしてきた人々の顔は」
「す、預言の犠牲・・・!?」
「そう・・・数が多くてここには入りきれていませんが、こちらにいるのはそれらの方々です・・・どうですか?預言と言うものを達成させるために数えきれない程の人々が犠牲となっている姿を見た感想は」
「・・・っ!」
あまりにも異常な光景を目の当たりにする中イオンからの冷笑によるまさかの声にモースは青ざめた顔で絶句する。預言により死んだ人々の姿だと言われ。
「クスクス・・・どうしたんですか?散々命令してきた訳じゃないですか。預言だから殺せと配下に。なのにどうしてそんなに青ざめた表情をしているのでしょうか?彼らは預言に詠まれて死んだ人ですよ。堂々とその姿を見ればいいではないですか」
「ど、堂々となど・・・うっ、うぷっ・・・!」
更に愉快そうに微笑を浮かべつつ問いを向けるイオンに、モースは何とか視線を合わせようとするが周りの死体に近い人々の姿を見てたまらず涙目になってえずく。
「クッ・・・アハハハハハ!情けないですねモース!この人達は貴方の命令・・・いえ、正確には歴代のユリアシティの息のかかった預言保守派により預言を達成させるために殺された人々なんですよ!それも嬉々として命令して殺した人々です!なのに何故今は笑えないんですか!?預言達成の為に死んだ、死んでくれた人達を目の当たりにしているのに!」
「っ・・・!」
イオンがその無様な姿に狂ったように笑う姿を見せながら告げる言葉に、モースは言葉を無くす。



・・・だがそうやって言葉を無くした理由は預言に詠まれた人々の実態を見て罪悪感に包まれたからではなく、単にモースが戦場に足を運ぶ事などなかったからだ。大小関わりなく戦場ともなれば、安全圏と言うものは敵の動き次第ではいつ安全圏でなくなるか分からなくなるもの。そんな危険な場所に我が身が預言同様何よりも大事なモースが行くわけがない・・・行ったとしても完全に戦いが終わって安全になったと確定した時だ。

そんな状況で人が容易に傷付き死に行く姿など見ているはずもなく、モースはそのような姿に対しての免疫が全くなかったのである。それこそ致命的なくらいに・・・



「・・・フフッ、まぁいいでしょう。どう思ったにせよこの方達同様、貴方には死んでいただくのですから」
「っ・・・い、嫌だ・・・死にたくなどない・・・!」
「往生際の悪い人ですね、貴方は。自分が大詠師だから、預言を守って生きてきたからなどというのは免罪符にならないんですよ。むしろ今まで預言の恩恵に預かり預言の為にと生きてきたのですから、第七譜石に詠まれた預言の為に身を捧げてください・・・それが貴方が常々言ってきた預言は守られるべき物という考えの最たる物なのですから、預言に詠まれた大詠師がそれを実践出来ないでどうするというのですか?・・・ねぇ、モース・・・」
「た、頼む!頼みます!大詠師の名前などもういりません!預言は守られるべき物などということはもう言いません!ですから助けてください!お願いします!」
・・・最早モースに形振り構う余裕などなかった。
いよいよイオンが終わりだと言わんばかりの合図に笑いを抑えゆっくりと手を上げようとした時に命乞いの言葉を向けるが、むしろ大詠師としての最期の役目に殉じろと静かに返された事にグシャグシャに泣きながら必死に叫んでいく・・・醜悪極まりない、預言すらも無いものとしてでも自分の命を必死に守りたいと叫ぶ身勝手な言葉達を。
「・・・さぁ皆さん、どうぞ」
「っ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
だが目の前のイオンは全く聞き入れず、頭の上にまで上げた手を合図と共に下ろす。その瞬間モースが目にした光景は・・・周りにいた死体としか思えない人々から放たれた数々の刃が自身の体に迫り行く物で、断末魔の叫びを上げる以外に成す術は何もなかった・・・















「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!あぁっ!!うわぁぁぁっ!!!!!」
「っ!?どうしたモース!?一体何が起こってるのだ!?」
・・・だがその光景はモースにとっては長くいつまでも続く物だが、現実世界ではほんの数秒程度の間に起こったこと。
最初の叫びからすぐにまたおぞましく叫ぶ姿にインゴベルトは恐怖を浮かべながら声をかけるが、一輝は構わず指を突き付ける。
「これが鳳凰幻魔拳の力よ」
「こ、これが・・・!?」
改めて技の名を告げられ恐怖と動揺にインゴベルトは震える。その技が何をモースにもたらしたかは分からずとも、何かが起きての驚異だとだけはハッキリと分かるために。







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