双子の片割れと三人の聖闘士の介入

「もし俺がカノンの立場であったなら、同じような行動を取っただろうな・・・自分を頼る子供の手を振り払うなど、俺には出来ん」
「ですからカノンも今こうやってファブレという貴族の執事という立場でルークに仕えているのでしょう・・・今のカノンにとってルークという存在は庇護すべき存在であり、だからこそアテナもその行動に感銘を受け我々を派遣された。聖闘士でなく一人の人間として良心に基づいて動く、カノンの為に」
自分がカノンのようにそこにいたなら。そう熱を込めて語るアイオロスは拳を握りルークの手を拒否出来んと言うとカミュはあくまで冷静に、アイオロスから視線を外して気絶しているティアの方に向かいながらも話をしていく。そしてゆっくりとその体をいわゆるお姫様抱っこと言われる形で抱き上げ、再びアイオロスに向き直る。
「そしてそのカノンに今、我々は協力するように言われています。勿論人道に基づかないような行動に従う義理は我々にはありませんが、この娘に情けをかける気は私にはありません・・・とりあえず宿に行きましょう。ずっとここに放置しておくわけにはいきませんからね」
「あぁ、そうだな。そうするか」
「では行きましょう」
そのままにカミュはティアを一度見て助ける理由はないと言外に言いながらも宿に行こうと言えば、アイオロスも気を取り直して笑顔で答え村の中に二人で戻っていく・・・仁智勇兼ね備えた聖闘士として次期教皇として任じられたアイオロスだが、元々熱い面が強い彼。その上で、生きてきた実年齢で逆転されたカミュの老獪な冷静さにはどうにも経験の差で諭される事が多くなっていた。だが性質の違いに経験の違いがあると言ってもぶつかりあい嫌いあう傾向が見えない事から、それは二人は相性が悪くないことを示していた。















・・・エンゲーブの外からそのまま二人は宿に向かう。その道中何故ティアがお姫様抱っこをされているのか、という視線を向けられたがそうしているカミュに側にいるアイオロスの顔を見て大概の者達はどこか納得したように視線を逸らした。残りはどこか羨ましそうな女性の視線である・・・そこは当人達にそこまでの自覚はないがタイプの違う相当な美形が二人揃っているのだ。これがいかにも不細工な男であったり盗賊のような身なりであったら、即座に騒ぎになっていたに違いない。おそらく周りはカミュ達が気を失ったティアを介抱するために抱き上げている、とでも思っているのだろう・・・美形は得である。



「・・・む、まだ宿は何か騒ぎが起きているか」
「先程から物騒ですね。話によれば食料泥棒が出たという話ですが・・・む?」
そんな中宿まで来た二人だが村に入ってから未だに続く宿を取り巻く村人の喧騒に、少し離れて見ていたアイオロスもカミュも眉を寄せるが宿の入口のドアが空いて村人が左右に分かれ道を作った状況にカミュは更に眉を寄せる。
「・・・あれは、姿形から見て司祭とかそう言った宗教に殉ずる者が着る服のようですね。それも服に使われている材質から見て、相当上の立場にいる人間のようだ」
「・・・む?・・・何やらこちらに近づいてくるが・・・」
その扉の奥から現れたのはカミュから見て、いかにも宗教に属する者が着るようでそれでいてランクの高い服を着た緑色の髪の毛の少年。その少年は二人を見て何かハッとして、二人に近付いてくる。
「・・・どうも、こんにちは。どうしたのですか、そちらの方は?見たところ神託の盾のようですが・・・」
「・・・いえ、なんでもありません。気を失っているのを見つけたので宿に連れていこうと思っていただけです」
「そうですか・・・すみません、我が配下の為に手を煩わせてしまって」
「・・・配下?」
それで笑顔で二人に挨拶をしてくる少年だったが、その興味はカミュの腕の中のティアだったらしく心配そうに声をかけてくる。そんな少年にカミュは面倒のないよう当たり障りない嘘を吐くが、配下という聞き捨てならない言葉に思わず聞き返す。
「あぁ、自己紹介をしていませんでしたね。僕はローレライ教団の導師のイオンです。よろしくお願いします」
「っ・・・導師、なのですか・・・?」
その言葉に少年は笑みを浮かべ自分をローレライ教団の導師イオンと言ってくるが、カノンから情報を受け大まかにこの世界の情報を聞いていたカミュは思わぬ大物の登場に、らしくもなく驚きを浮かべかけ必死に冷静に勤めようとした。そしてそれはアイオロスも同様だったが、こちらは目を完全に見開いていた。









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