双子の片割れと三人の聖闘士の介入

「ま、今言ったばっかだけど辻馬車乗ればバチカルすぐだって思ったからこの女ともその間我慢すれば終わりだって思ってたからな。まだしばらくずっとコイツと一緒だったと思うと、寒気がするぜ・・・」
「お気持ちお察しします。ですがもう少しですのでこの女と一緒にいることを我慢していただけませんか?
「えっ・・・なんでだよ?」
カノンの賛辞を受けつつも一応のその後の報告をして体を震わせながら抱くルークに、カノンは同意しつつもまだティアといることの我慢をと願う。その真意をまだ知らないルークは嫌そうにカノンを見る。
「この女は屋敷を襲った犯人で、謡将との共謀の疑いもかかっています。謡将自身は共謀もですが襲われる理由もないと否定していますが、真意の程を確かめるにはこの女から直接聞く以外にありません。そしてそれを聞くにはこの女をバチカルに連れていく必要があり、これは公爵直々の命令でもあります」
「だから連れていくのは我慢しろってのか・・・」
「はい。ですがこの女は数日は目は覚まさない上に、エンゲーブでカイツール方面に向かう辻馬車を我々が捕まえたいと思っています。故に帰国にそれほど時間をかける気はありませんので、ご安心ください」
「・・・まぁそういうことならわかった。ただこんな目に合わされたんだ。謡将にもこの女にも色々吐いてもらわなきゃ割りに合わねーよ」
それでそうする訳を言いつつも出来る限りの配慮はするとカノンが言えば、ルークも納得するがどうにも抑えきれない苛立ちをヴァンの分も含めティアに視線で送る。
「ありがとうございます。ではとりあえずは村の中に戻りましょう。辻馬車を捕まえるにも休憩をするにも村の中に行かねば話になりませんので」
「あぁ、わかった・・・で、今思ったんだけどコイツらお前の友人って言ってたけど名前何て言うんだ?カノンが言うから信頼は出来るんだろうけど、名前も知らないってのはどうもな」
「これは失礼しました、ルーク様」
主の不満はさておきと一応了承を得られたので村の中に戻ろうと言うカノンに、ルークはいいとは言いつつもさっきから気になっていたようでデスマスク達を振り返りながら名前を知りたいと言う。そんなルークにデスマスクが任務でしか見せない型にはまった綺麗な礼をカミュにアイオロスと共に取る。
「私の名は通り名ですがデスマスクです。カノンの依頼で貴方がバチカルに帰国されるまで我々三人も共に、貴方の護衛をさせていただきます」
「私の名はカミュです」
「私はアイオロス・・・以後お見知りおきを」
「あぁ・・・よろしく頼む」
デスマスク、カミュ、アイオロスと各々一部の隙も見せずルークを真剣な眼差しで見据え丁寧に名前を名乗る三人。その姿にルークは素直に頷く。
‘グゥー’
「うっ・・・ま、まぁ自己紹介もしてもらったことだし、戻るか・・・昨日から何も食ってないから腹へってしかたねーし、何でもいいから腹に入れたい・・・」
「でしたら先程見ていらしたリンゴを買って、剥いて差し上げましょう。産地で直接いただく作物はまた格別の味ですからね・・・アイオロス、カミュ。その女を運んで宿に向かってもらっていいか?俺とデスマスクはルーク様としばらくエンゲーブの村の中を散策する」
「あぁ、わかった」
そんな時唐突に鳴った腹音にルークは恥ずかしそうに頬を赤くしながら早く村に戻って何か食べたいと言えば、カノンは立ち上がり微笑ましげにこれからの行動を述べアイオロスとカミュもその指示に素直に頷く。
「では後は頼む、俺達は先に行くからな」
「あぁ、後で合流する」
「では行きましょう、ルーク様」
「あぁ」
その肯定を受け取り後を任せルークをエスコートするよう先を行くカノン達の姿を見てから、アイオロス達は互いの顔を見合わせる。
「・・・貴族らしくない子供だったな。あのルークという子は」
「だからこそカノンも気にかけ、側にいると決めたのでしょう・・・カノンの話によれば十歳以前の記憶を失い赤ん坊のような状態になり、以降は記憶を取り戻すこともなく七年を過ごした・・・とのことです。彼の行動は見た目の年齢に似合わず幼く、また精神もそれに付随するかのよう幼い・・・だからこそルークは誰かを頼らずにはいられず、それがカノンだった」
「だろうなぁ。貴族の生活なんて想像しか出来ないが、話を聞く限りは厳しいとはよく聞く。そんな環境で記憶を失った赤ん坊のような子供が、昔のようにしろと言われて耐えれるとも思えないからな・・・その点、ルークはカノンの優しさを見出だしたからこそカノンを頼ったのだろう。自分を助けてもらう為に」
・・・そして交わされる会話はルークに対して抱いた印象であり、その取った行動の推測。カミュの表情は変わってはいなかったが、アイオロスの表情は微妙だが悲しそうに歪んでいた。






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