双子の片割れと三人の聖闘士の介入

「そ、それは私の個人的な事情よ。言えるわけないわ・・・」
「個人的な事情か。屋敷を襲撃しても個人的な事で済ませようとするのなら、俺がお前を殴るのも個人的な事情と言えばそれで許されるのだな」
「そんなこと、言ってないわ!」
「言ったではないか。屋敷を襲ったことに対して事情があるなら言えと俺は言ったが、お前は沈黙を決め込もうとした。個人的な事だとな。それはすなわち個人的な事情を匂わせさえすれば罪も迷惑も関係無く好きにしていいと、そう言ってる事に他ならん。その理論を自分だけは適応出来て他の人間は適応出来んなどとは言わせんぞ」
「・・・だからそれは、訳があって・・・っ!」
「言えんというのか?・・・もういい、話にならん。そっちが個人的な事情というのなら、俺は公爵からの命という大義名分でお前を捕らえてやる・・・行くぞ」
「っ・・・むざむざやられてなんて、やらないわ・・・っ!」
・・・個人的な事情と、それをただ押し通し沈黙をしようとするばかり。平行線を行くばかりの会話に冷静にもう問答を終わらせんと拳を握り歩き出すカノンに、ティアは逆に立ち上がりながらも杖を構え激昂しながらカノンを見据える。
「はっ!」
「遅い」
‘パッ’
「っ!ダガーを取った、ですって・・・!」
そこから杖で殴りかかるかと思えば、スローイングダガーで攻撃してくるティア。だが一切驚きもせずダガーを掴みとるカノンに逆にティアが驚くが、今度は正真正銘杖を振りかぶってきた。
「やぁっ!」
「・・・フン」
‘パッ、グシャッ!’
「!?なんですって・・・!」
兵士としてはいささか勇猛さに欠ける声を発しながら振りかぶられた杖を興味なさげに鼻をならし、カノンはダガーを捨てながらも杖をたやすく掴み・・・無造作に握り潰した。その尋常ならざる握力にティアは目を見開くが、カノンの目は反対に冷たく細まる。
「この程度の身のこなしで兵士とは・・・神託の盾の底が知れるな。これならまだどこぞの盗賊の方が手強いぞ」
「わ、私の役割は譜歌を歌って味方を支援することよ・・・神託の盾の侮辱は許さないわ・・・」
「分からんか?その後方支援という役割にあぐらをかき、体術を磨こうともせんことがその底の浅さを露呈していると言うのだ。事実近付かれた時の動きの悪さは盗賊の身のこなしにすら劣る・・・これならまだ俺の知る戦い嫌いの感傷的な男の方が何倍もマシだ。いざとなれば生身の拳でも戦うのだからな」
「・・・っ!」
その上で兵士としてあまりに未熟な身のこなしを盗賊以下で神託の盾の浅さとカノンは評するが、自分は後方支援が役割だからと言い訳を押されながらもしてくる。だがその心こそが浅いと言いながらも瞬を引き合いに出し比較に上げるカノンに、ティアは敵意を剥き出しにして歯噛みする。そして・・・
「やあぁぁぁっ!」
形振り構わず拳を握り、カノンに殴りかかった。だが顔を狙ったその拳はお世辞にもフォームがいいとは言えない上に拳速もなく、オマケにカノンは敵の攻撃を食らってやるようなお人好しではなかった。
‘ドムッ!’
「かっ・・・っ!?」
「その程度の攻撃をくらってやる道理などない」
・・・更に言うなら身長が20センチ以上違うカノンの顔を狙えば、必然的に体が伸びる形になる。ティアの攻撃をなんなく横に避けながら放ったカノンの拳は、無防備になった腹にカウンター気味に突き刺さった。一瞬で激痛に苦悶の声を上げ白目を剥くティアに聞こえてるかどうかなど関係無く、カノンは冷たく最後の言葉を言い放つ。そして腹に受けたダメージで意識を保てなくなったティアは、カノンの拳にもたれかかるよう気を失った。
「ご苦労さんカノン」
「大して苦労してはいない。強いて言うなら対話が出来なかったのには苦労したがな」
終わったのを見て取りカノンに近付く悪い笑みのデスマスクに、苦笑混じりにカノンはティアを地面に下ろしながら冗談めいて返す。
「カノン」
「ルーク様」
そこにカミュとアイオロスを後ろにつけルークが近付き、カノンは主の声に応対するよう膝まずいてかしずく。










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