影を動く聖闘士の躍進

「その理由は様々ございますがまず上げられるのはアッシュと謡将の扱いをどのようにするかという判断と、対外的な示しをどのようにつけるかがまず難しいという物になります。流石に神託の盾の謡将が『ルーク=フォン=ファブレ』という存在の入れ換えを行っていたとなれば、キムラスカとダアトの折り合いをどのようにつけるかが難しくなるでしょう。またそうしたならば大詠師はダアトの恥部だと事実を必死に隠蔽しようと身柄の引渡しを求めるでしょうが、それを認めてしまえば事実を白日の元に明かす機会は永久に無くなり無理に身柄を留めようとすれば、自身の監督不行き届きを棚に上げて大詠師はキムラスカに理不尽な要求をしてくるでしょう。一例を上げれば身柄を渡さないなら預言関連で不都合を起こしてやると、言葉面は大層に飾った実質的な脅迫を向けるなどして」
「むっ・・・有り得ない、と言いたいがモースの性格を考えれば全くないとも言えぬな・・・もし仮にヴァンがダアトに戻ったなら二度とキムラスカに来ることはないだろう・・・」
「はい。そして謡将が何をしようとしていたのか、それを明らかにする機会が失われることを意味します。アッシュを手元に置いてまでやろうとしたことのその意味について明らかにするには謡将を問い質す以外にありませんが、キムラスカ側にその理由を正直に明かすとも思えない上で、ダアトに戻ったならより最悪の可能性がございます・・・それは超振動を単体で使える存在をダアトの為に獲得していたとでも大詠師に告げれば、大詠師がそちらになびく可能性があるということです。預言に反することだからルークという名の代わりは置いた、だからアッシュの事は名前が変わっているから問題ないと」
「なっ・・・なんだと・・・!?」
「無論、これが極論であることは承知しています。ですが謡将の思惑が何なのか、それがはっきりしていない以上はダアトの為だと懇懇と言ったように説けば大詠師が流される可能性も全く有り得ない訳ではありません。大詠師も超振動の脅威を知っているなら尚のことです」
「・・・否定したいが、出来んなそれは・・・ヴァンはモースの最も大事な手駒とも言える存在の上、預言の形に沿わせさえすればと心変わりをする事は有り得ん事ではない・・・事実、超振動はそれだけの物がある・・・」
それでアイオロスから流れるように話していくモースにヴァンの関連性に危険性に、公爵は反論も出来ずに暗く重く納得する以外に出来なかった・・・ダアトに有利な事実の隠蔽が行われるのはまず確実と、そう認識した為に。
「それに加えて言うなら明日にはヴァンは牢から出ることになる、無理に今から私が牢に留めようとしたなら事態が拗れかねん・・・」
「明日、謡将が牢から出るのですか?」
そこでポロッと出た公爵の呟きにカノンが目を少し大きくし、意外そうに食い付く。
「あぁ・・・先程陛下にモースと話をしたのだが、明日ルークを呼び出しヴァンとその妹に死霊使いと共にアクゼリュスに向かわせることが決定した。ヴァンは預言の中身を知っているからアクゼリュスと共にルークに他の面々を消滅させることでファブレ邸来襲の件もそれで無罪放免で済ませてほしいと、そうモースが言い出した事で釈放という形でな」
「・・・と言うことはもう明日にはルーク様はアクゼリュスに出立する、と・・・」
「そういうことだ・・・ここまでの事を聞いたのなら本当ならアクゼリュス行きは止めてヴァンの件について陛下達と協議したいが、モースがいる現状ではそれもうまくいくとは思えんのだ・・・」
「成程・・・しかし随分と急な話になりますが、余程大詠師は早く預言通りにしたいと見える・・・」
それでもうアクゼリュス行きは決定済みで覆せないと返ってきたことにカノンは表情を歪める。






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