世界の奔流の一幕に聖闘士の影

「・・・そんなにおかしな事か、他国の人間に対して敬意を忘れないで線を引くのは?」
「いえ、そんなことはありませんが・・・」
「だろ?でもあの人はそういった事は気にしないって記憶のあった頃の俺が態度を崩していた事も引き合いに出してくるけど、今の俺はそんな気になれない・・・それだけの事だよ」
「・・・」
それで首を傾げ問い返すルークにジェイドがおかしくはないと言うと、自身の言った事からそうしないのだとなんでもなさそうに首を振る。その姿にジェイドは眼鏡を手で押さえる。
(奇妙ですね・・・嘘を言っているとも思えないのですが、本当の事を言っているとも取れない。強いて言うなら用意していた答えを読み上げている・・・に近い気がしますね)
その手の裏でジェイドは自身の推測を立ててみる。自然ではあるが不自然でもあったその態度の理由を。
(・・・まぁこの事に関しては別にいいでしょう。そんなに気にする程気になる事でもありません・・・それに気になる事は他にもありますからね・・・)
「・・・話がお済みでしたら出発致しましょう。陸路を行くのであれば神託の盾に出くわす可能性は減るでしょうが、代わりにザオ砂漠を越えるという過酷な環境に身を投じることを意味します。砂漠越えは相当に体力を消費し、足の鈍りが船に乗ってケセドニアに向かう以上に出てきます・・・準備を整え早目に出発するのがよろしいかと思われます」
「そうだな・・・んじゃ行くか」
「・・・」
しかしジェイドはそこで気にする程ではないと思考を打ち切り、出発の流れを作ったカノンとルークの声に従い黙ってその後に付いていく・・・



・・・その考えが後に多大な後悔を生むことも知らず・・・












「・・・あれは・・・」
「導師にアニス、それにあれは・・・ミロ」
「ミロ?」
「我々の仲間だ、故あって別行動をしている」
「貴方達の・・・?」
・・・そのようにしてバチカルを出るべく天空客車に乗り最上層から下の層に降りたルーク達。そこでルーク達はこちら側に歩いてくるイオンにアニスにミロの姿を見つけた。ただティアはカミュから仲間と聞き、露骨に嫌そうに表情を歪めた。
「・・・これは、皆さん・・・」
「どうしたんだ、一体?二人でいるのならともかく、カミュの話だとそのミロっていうのと一緒って・・・」
「・・・その事なのですが実は昨日、僕は神託の盾の手の者にさらわれかけました」
「えっ!?イオン様、それは本当なのですか!?」
「えぇ、たまたまこちらに居合わせてくれたミロさんが助けてくれたために大事には至りませんでしたが・・・」
「っ、そうですか・・・一先ず何事もなくて何よりです」
それでルーク達の前に来て気まずげにイオンが声を上げルークが何があったのかを聞くと、襲われたと視線を下に向けながら明かした事にティアが声を張り上げ反応する。イオンはミロのおかげで難は逃れたと紹介するよう手を向けるが、また露骨に顔をしかめた後にティアはイオンには真面目に表情を取り繕い無事を喜ぶ。
「・・・すまなかったな、ミロ。導師を助けてもらって・・・」
「何、気にするな。居合わせた以上見過ごすことなど出来なかっただけだ・・・とはいえこのバチカルという場所で導師が襲われた以上、安穏ともしていられない。そう思った俺はインゴベルト陛下に事情を打ち明けしばらくかくまってもらった後、内密にダアトに帰れるようにしてはいかがかと提案したんだ」
「そうなんですか、イオン様?」
「はい・・・依然として僕が狙われていることには変わりはありませんし、かといってあちらの神託の盾が説得して引くように言っても話が通じるとも思えません。それに本来でしたら僕も仲介を頼まれた事もありアクゼリュスに向かいたい所でしたが、神託の盾の狙いである僕が付いていけば貴殿方の身の危険にも繋がるとミロさんに言われてあえなく断念しました・・・ですからしばらくバチカルで過ごさせていただき、事が落ち着いた頃に神託の盾の目を欺くためにも内密に帰国してはいかがかとのミロさんの発案に賛同して城に向かっているんです」
「そう、だったんですか・・・」
カノンもミロに対し礼を言うと、そこからイオンが取るべき安全策を提案したと返した事にティアが首を傾げる。その姿にそうなった理由を苦くも確かに決断したと語るイオンだったが、またもティアはミロを複雑そうに見る・・・カノン達の仲間という事で反発心が生まれているのだろう。例えそれが正論だと分かっていても。









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