世界の奔流の一幕に聖闘士の影

「・・・何故、そのようなことになったのでしょうか?お父様からはルークと一緒に行くのはカーティス大佐にグランツ兄妹と言われたはずですが・・・」
「公爵様の言葉によればその人選に多大な問題があるからとの事です。ナタリア様ならお聞きの筈ですがグランツ兄妹には元々よりルーク様の誘拐に関しての嫌疑がかけられていることに加え、カーティス大佐もマルクトの人間・・・そのような中にルーク様一人を身の安全を考えずに一人で入れるわけにはいかないと公爵様が私、そしてデスマスク達には報酬を提示する形で同行するようにと依頼されたのです。そしてルーク様もこの事は既にご存知です」
「っ・・・そう、ですか・・・」
ナタリアはたまらずその訳について聞くが、理由を聞いて何も反論出来ずに口をつぐむ。理由が理由なだけに下手に非難も否定も出来ないと、そう思った為に。
「・・・これは、ナタリア様。どうされたのでしょうか?」
「っ・・・謡将・・・出られたのですか・・・」
「えぇ、この通り」
そんな時に背後からかかってきた声に振り返ればヴァンの姿で、ナタリアはその姿に複雑な表情を浮かべる。
「・・・それで、ルークはどうしたのでしょうか?出来れば出立する前に激励の言葉をかけたいのですが・・・」
「ルーク様は只今準備中です、しばらくお待ちください・・・と言いたいところですがそのニュアンスでは二人きりで会話をしたい、と言っているように聞こえますが?」
「相変わらず鋭い読みだな、カノン・・・確かにその通りなのだが、時間を取ってもらう訳にはいかぬのか?」
「なりません。いかに貴方が剣における師とはいえ今はルーク様の誘拐における容疑はまだ晴れてはおりません。そのような方とルーク様を二人きりにはさせられません」
「「・・・っ!」」
・・・はっきりとしていて、それでいて相当に冷たいと分かる拒否だった。
ナタリアから視線をカノンに向け直し話をしたいとヴァンは切り出すが、二度の申し出でも取り付くシマもない丁寧ながらも単刀直入な言葉にヴァンは唖然とし、自身には言われてないはずのナタリアは身を震わせた。
「・・・ナタリア様、よろしいですか?」
「えっ・・・あっ、なんでしょうか・・・?」
「普段でしたら屋敷内ですので時間は取れますが、我々はルーク様の準備が整い次第出発しなければなりません。ナタリア様がルーク様に激励に来られたと言うのなら一言二言程度の時間ならお取りは出来るでしょうが、それ以上に長くなるような用向きでファブレ邸に来られたのでしたら今この場で私に申し付けください。ただそれが出来ないと言うのであれば申し訳ありませんが、ただちに城に向かいナタリア様にお引き取りを願うように手続きを踏ませていただきます・・・このような手段は取りたくはありませんが我々は和平を成功させるための一団であり、その和平への道を紡ごうとする一団をナタリア様がご自身の我が儘で遅延させるというのであれば、流石に兵も陛下も決断を下さずにはいられないでしょう」
「っ・・・それは・・・っ!」
その動揺を突くようにカノンが視線を真剣にナタリアに向け用向きを言うように言うが、それを馬鹿正直に言えるはずもないナタリアはたまらず言葉を詰まらせ視線を背けた・・・正直に言ってもカノンの事だから拒否されるだけ。そしてそれを言ったらただでさえアクゼリュス行きを反対されているのに、インゴベルトに城に縛り付けられる口実を与えてしまうというどちらでもナタリアにとって不本意極まりない事態になる姿が見えた為に。







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