双子の片割れの焔への従事

・・・ここでカノンがガイに鳳凰幻魔拳を使おうと思ったのには理由がある。それは説得ではガイの様子から上手く納得させた上で、黙らせるには時間がかかりすぎると感じたからだ。ならば説得などせず適当に時間を過ごしていればよかったのでは、と思うかもしれないがそれも違う。そんなことをすればいかに自分にとっては大したことではないとは言え実力行使に出かねないと、そうカノンがガイの目から感じていたからだ。

ならばと表向き穏やかにこの場を納める方法としてカノンの心中に思い浮かんだのが、一輝の鳳凰幻魔拳であった。ただ精神支配という点で言えば威力で双璧を為す幻朧魔皇拳をカノンは使えるが、使用用途の方向性が違うためそれは断念となった。

・・・幻朧魔皇拳は幻を見せる鳳凰幻魔拳と違い食らったものを自身の操り人形にする技であり、別段ガイを操り人形にする気はなかったカノンは幻朧魔皇拳を使うことを止めた。もしも何かの弾みでダメージを食らったなら幻朧魔皇拳の特性上、目の前の相手を見境なく殺さんとする凶戦士に化けてルークに被害が及ぶ可能性もあるだけに。

ただカノン自身が言っているよう鳳凰幻魔拳はあくまで一輝の技であり、借り物の劣化版でしかない。故にそこに失敗があったとカノンはガイの様子から感じていた。



「やはり頭の中を覗けんのは手痛いな。全身全霊で精神を砕くなら別にいいのだろうが、流石にそうするわけにはいかなかったから手加減はしたが・・・本来の鳳凰幻魔拳のよう数秒経てば意識を取り戻す様子が見えないのに加え、悪夢にうなされる様子も見えない。加えてどんな悪夢を見ているのかがわからないから効果が出ているのかどうかもわからない・・・廃人になった様子は見えないから精神は砕かれきってはいないようだが、こんな不完全な技では一輝にも申し訳がたたんからな。以降は使わんようにするか」
ガイの様子を観察しながらも自身の使った鳳凰幻魔拳の本家の一輝には見えない特徴を見て、カノンはもうこれ以降は劣化鳳凰幻魔拳は使わない事を決心する。



・・・元々ガイに使った劣化鳳凰幻魔拳はその瞬間にパッと思い付いた瞬策に過ぎず、こういった結果になるとはカノンは思ってはいなかった。とは言えある程度の手加減はしていたから最悪の結果はないと思ってはいたが、それでも頭の中が分からずどこまでの効果があるのかわからないのはカノンにとってこの鳳凰幻魔拳は技としては完成品と呼べる物ではなく、実戦で使える代物とは言えなかった。故にカノンはこの劣化鳳凰幻魔拳を使わない事に決めた、制御出来ない技などみだりに使って失敗した時の事を考えると目も当てられない事態になり得るために。

・・・ただそんな劣化鳳凰幻魔拳をカノンが使うに至ったのには、やはりガイに原因がある。



「・・・本来なら俺もここまでのことはしたくなかったんだがな。だがお前にルークを預けることは出来ん。友に育ての親と言いながら全くその言葉に伴った行動を取っていないのだからな」
カノンは未だ意識を取り戻さぬガイを見て、苦く呟く・・・カノンとてガイが信頼出来る人間なら身を引いてルークとの交流を阻むことなどする気はなかった。だがそれもガイの言葉に伴わない行動がその気持ちを全て失わせるに至った。
「どういった幻をお前が見ているか、俺にはわからん・・・だがお前が目覚めた時、そこに俺はいない。大人しくここで帰還を待っているんだな・・・そして次に会った時が、お前の最後だ」
そして自らに明らかな害意を見せてきた以上、もうガイを野放しにする気はカノンにはない。カノンはガイの幻影からの帰還を待つでもなくその横を通り過ぎ、宣告を下してからその部屋を後にしていった。次は終わらせる、そうガイにとっての死刑にも等しい宣告を下し・・・






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